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第八章 ヨハンネスの涙
エレクトラ・リューベック
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第八章 ヨハンネスの涙
ジゼルは、本当に、疲れてしまったのか眠りについていた。ヨハンネスも、それを確認し、自室で寝させている妹のことを思いつつ、そっと2階のドアをしめ、「ふう……」とため息をもらし、手紙の封蝋を開けた。シーリング・スタンプだ。
だいぶ古い。そりゃそうだ、およそ10年前、俺が7歳のとき、母が司祭様に託した手紙なのだから。
(おふくろから、成人した俺への、メッセージ、か……)と、半ば期待に胸をふくらませ、ヨハンは緊張しつつ、手紙の本文を読んだ。
「成人した、ヨハンネスへ 母・エレクトラ・リューベックより
ヨハンネスへ まずは、成人おめでとう。
司祭様に預けてあるので、この手紙を読むころには、あなたは立派に一人前になっていることでしょう。
母よりあなたに、少しだけ真実を告げます。
まず、母は人間ではありません。
姓も、もともとは「リューベック」ではなく、「アールトマ」という、エルフの姓でした。
そう、母は、実はエルフの一族だったのです。
本来、エルフと人間は、婚姻関係を持つことは禁じられています。
しかし、母は、ある件がもとで、人間界に旅行に行ったときにであった、あなたがたの父君に恋をし、エルフの掟を破って、シェトランド出身の、ケヴィンと結婚しました。そして、あなたたち二人が産まれました。
そこまではよかったのです。母は、イブハールを捨て、人間界でアストランで、ケヴィンと暮らしはじめ、幸せに暮らしていました。しかし、戦争があり、このような事態になっています……。
ヨハン、今、母は絶望し、あなたたちを教会に預け、卑怯ですが、私はイブハールへと戻る決心をしました。
そんな母を許してください。しかし、私には、あなたたち二人を抱えたまま、これ以上アストランで暮らすことはできません。御者の方にも裏切られ、母は涙が止まりません。
あなたたち二人を連れては、イブハールへは戻ることは、許されませんでした。(もちろん、母はそれを第一に考えました。しかし、手紙を送って、戻ってきた返事には、あなたたち二人は受け入れられない、とのことでした)
ヨハンネスよ、わがままな母を許してください。しかし、あなたたちの幸せを祈っていますし、イブハールからあなたたちを見守っています。
ジゼルに託した失われた鎖には、大きな意味があります。それは、直接の母からのメッセージではありません。ペルセウス座の神々からの神託に近いものです。ペルセウス座の神々が、あなたの行いを空から見て、その時々に、最適なメッセージを送るような仕組みになっています。
失われた鎖の謎の問いかけは、母の作ったものではないのです。
ペルセウス座は、ヨハンネス、あなたに最後にかけた加護・カシオペア座に少し近い星々の神々です。あなた方を天から見守ってくださいます。
母からは以上です。
母は、イブハールに戻り、再婚しようと考えています。
母を許してください。
あなたたち二人を、深く愛しています。母を、どうか許して……。
エレクトラ・リューベックより」
それが、手紙の全文だった。
手紙をそっと折り、封筒にしまう。これは、ジゼルちゃんには見せるわけにはいかない。そうヨハンは悟った。
妹がどれだけ傷つくか、ヨハンネスにはわかる気がした。
「おふくろ……」と言って、ヨハンネスは、あまりの衝撃に、思わず涙した。
ヨハンが持ってきたラジオから、周波数を合わせたラジオ番組から、ブラームスの曲が、甘く切なく、残酷に響いていた。
その日は、残酷に時が過ぎていった。
しかし、ヨハンネスは、ジゼルに悟られまいと、その手紙を二度、三度見た後、暖炉の火にくべて燃やした。
万が一のことがあってはならない。ジゼルにだけは、このことは、知られてはならない。
その日、、ヨハンはなるべく平静を装い、午後過ぎに起きだしたジゼルにも、優しくいつも通りに接した。
エレクトラによれば、失われた鎖は、母からのメッセージとは異なるらしい。
ジゼルは、本当に、疲れてしまったのか眠りについていた。ヨハンネスも、それを確認し、自室で寝させている妹のことを思いつつ、そっと2階のドアをしめ、「ふう……」とため息をもらし、手紙の封蝋を開けた。シーリング・スタンプだ。
だいぶ古い。そりゃそうだ、およそ10年前、俺が7歳のとき、母が司祭様に託した手紙なのだから。
(おふくろから、成人した俺への、メッセージ、か……)と、半ば期待に胸をふくらませ、ヨハンは緊張しつつ、手紙の本文を読んだ。
「成人した、ヨハンネスへ 母・エレクトラ・リューベックより
ヨハンネスへ まずは、成人おめでとう。
司祭様に預けてあるので、この手紙を読むころには、あなたは立派に一人前になっていることでしょう。
母よりあなたに、少しだけ真実を告げます。
まず、母は人間ではありません。
姓も、もともとは「リューベック」ではなく、「アールトマ」という、エルフの姓でした。
そう、母は、実はエルフの一族だったのです。
本来、エルフと人間は、婚姻関係を持つことは禁じられています。
しかし、母は、ある件がもとで、人間界に旅行に行ったときにであった、あなたがたの父君に恋をし、エルフの掟を破って、シェトランド出身の、ケヴィンと結婚しました。そして、あなたたち二人が産まれました。
そこまではよかったのです。母は、イブハールを捨て、人間界でアストランで、ケヴィンと暮らしはじめ、幸せに暮らしていました。しかし、戦争があり、このような事態になっています……。
ヨハン、今、母は絶望し、あなたたちを教会に預け、卑怯ですが、私はイブハールへと戻る決心をしました。
そんな母を許してください。しかし、私には、あなたたち二人を抱えたまま、これ以上アストランで暮らすことはできません。御者の方にも裏切られ、母は涙が止まりません。
あなたたち二人を連れては、イブハールへは戻ることは、許されませんでした。(もちろん、母はそれを第一に考えました。しかし、手紙を送って、戻ってきた返事には、あなたたち二人は受け入れられない、とのことでした)
ヨハンネスよ、わがままな母を許してください。しかし、あなたたちの幸せを祈っていますし、イブハールからあなたたちを見守っています。
ジゼルに託した失われた鎖には、大きな意味があります。それは、直接の母からのメッセージではありません。ペルセウス座の神々からの神託に近いものです。ペルセウス座の神々が、あなたの行いを空から見て、その時々に、最適なメッセージを送るような仕組みになっています。
失われた鎖の謎の問いかけは、母の作ったものではないのです。
ペルセウス座は、ヨハンネス、あなたに最後にかけた加護・カシオペア座に少し近い星々の神々です。あなた方を天から見守ってくださいます。
母からは以上です。
母は、イブハールに戻り、再婚しようと考えています。
母を許してください。
あなたたち二人を、深く愛しています。母を、どうか許して……。
エレクトラ・リューベックより」
それが、手紙の全文だった。
手紙をそっと折り、封筒にしまう。これは、ジゼルちゃんには見せるわけにはいかない。そうヨハンは悟った。
妹がどれだけ傷つくか、ヨハンネスにはわかる気がした。
「おふくろ……」と言って、ヨハンネスは、あまりの衝撃に、思わず涙した。
ヨハンが持ってきたラジオから、周波数を合わせたラジオ番組から、ブラームスの曲が、甘く切なく、残酷に響いていた。
その日は、残酷に時が過ぎていった。
しかし、ヨハンネスは、ジゼルに悟られまいと、その手紙を二度、三度見た後、暖炉の火にくべて燃やした。
万が一のことがあってはならない。ジゼルにだけは、このことは、知られてはならない。
その日、、ヨハンはなるべく平静を装い、午後過ぎに起きだしたジゼルにも、優しくいつも通りに接した。
エレクトラによれば、失われた鎖は、母からのメッセージとは異なるらしい。
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