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梓は変わっていない俺のアパートにやって来ると、泣きそうな顔して笑った。
「懐かしい」
そう言って一緒に映画を選んだ本棚を見上げ、一緒に食事をしたテーブルを見つめ、そして一緒に眠ったベッドにぼろぼろと涙を落とした。
「あずさ……」
「好きだったんです……。本当に……あなたの事が……」
大人になった梓が、背伸びもせずに俺を抱き寄せて囁く。
「もう……二度とあなたが手に入らなくても、それでも……あなたが、新しい恋をすることを……僕はずっと望んでた……っ。幸せになって欲しいから……心から笑って欲しいから……それを隣じゃない場所で待とうって決めて……。いつか……あなたが結婚でもして、子供とか作って、生きてることに喜びを感じるようになった時、会いに行こうって決めてた。ずっと好きでしたって、伝えようって……思ってた」
いつまでも待つ……っていうのは……、俺が幸せになるのを……待つって意味だったのか……?
バカ……言うなよ。
「そこに……お前の幸せは、あるのか?」
こんなに泣いて、こんな決断勝手にして、俺が見知らぬ女と家庭を作った先に、梓の幸せなんかあるのかよ。……ないだろ?
「……分からない……。だけど、僕が隣にいちゃダメな気がした。優臣さんの影を追っている貴方達から、逃げなきゃいけないと思った。腹が立ったとか悲しいとかじゃなくて、僕が……高校三年生以上に成長し続けてしまうことが、貴方をもっと苦しませてしまうような気がして……」
だから……あんなに突然の別れだったのか……。別れの言葉を言う最後の最後まで、梓は俺の事好きだって、そういう顔してたもんな……。
「……ごめん……っ、梓……。ごめん……。俺、弱くて……逃げてばっかで……ごめんな」
梓の背中に腕を回してきつく抱きしめ返すと、俺の肩口でゆるゆると首を振った。
「弱くない……。生きててくれてありがとう……。それだけで十分だよ。直人さんにもお礼を言わなきゃ……」
突然直人の名前を出すから、どういうことか聞くと、梓は可笑しそうにクスクス笑って言った。
「直人さんね、柄沢さんよりずっとしつこかったんだ。着信拒否しようかなってくらいで。のぶさんや小泉さんからも連絡があったけど、直人さんほどじゃなくて」
思い出して梓は呆れたようにもう一度笑った。
そして教えてくれた。
直人とは二人きりで何度か会っていたらしい。東京を出るまでに数回。俺の高校時代の話や、優臣のことを聞いたみたいで……。けど、直人やのぶや小泉……、みんな俺と同じように梓を優臣に重ねていることを感じ取った梓は、やはり別れるという決断を変えることをしなかったらしい……。
けど最後に一つ、梓は直人にお願いをした。
俺が死なないように、きちんと見張っていてくれ、と、
梓はこの時……高校生だ。
信じられないな……。
どこまで俺は見透かされていたのだろう。どこまでこの精神状態を理解してくれていたんだろう。
「すごいな……梓」
寄せ合った体のまま、見つめ合って……。
五年ぶりに、キスを交わした。
ドキドキした。緊張なのか、嬉しさなのか、安堵なのか……。けど、喜びや幸せに満たされる感覚が確かにしたんだ。
「愛してる……。一緒に、生きて欲しい」
泣きながら、「うん」って聞こえないほど小さな声で頷いた梓に、ようやく……俺は高校時代のあの日から……先に進めるような気がした。
それはまるで、止まっていた時計の針が、カチっと一秒、進んだような感覚。
俺は梓と前に進む。梓が居れば、前へ進める。未来だって、見える気がする。
「懐かしい」
そう言って一緒に映画を選んだ本棚を見上げ、一緒に食事をしたテーブルを見つめ、そして一緒に眠ったベッドにぼろぼろと涙を落とした。
「あずさ……」
「好きだったんです……。本当に……あなたの事が……」
大人になった梓が、背伸びもせずに俺を抱き寄せて囁く。
「もう……二度とあなたが手に入らなくても、それでも……あなたが、新しい恋をすることを……僕はずっと望んでた……っ。幸せになって欲しいから……心から笑って欲しいから……それを隣じゃない場所で待とうって決めて……。いつか……あなたが結婚でもして、子供とか作って、生きてることに喜びを感じるようになった時、会いに行こうって決めてた。ずっと好きでしたって、伝えようって……思ってた」
いつまでも待つ……っていうのは……、俺が幸せになるのを……待つって意味だったのか……?
バカ……言うなよ。
「そこに……お前の幸せは、あるのか?」
こんなに泣いて、こんな決断勝手にして、俺が見知らぬ女と家庭を作った先に、梓の幸せなんかあるのかよ。……ないだろ?
「……分からない……。だけど、僕が隣にいちゃダメな気がした。優臣さんの影を追っている貴方達から、逃げなきゃいけないと思った。腹が立ったとか悲しいとかじゃなくて、僕が……高校三年生以上に成長し続けてしまうことが、貴方をもっと苦しませてしまうような気がして……」
だから……あんなに突然の別れだったのか……。別れの言葉を言う最後の最後まで、梓は俺の事好きだって、そういう顔してたもんな……。
「……ごめん……っ、梓……。ごめん……。俺、弱くて……逃げてばっかで……ごめんな」
梓の背中に腕を回してきつく抱きしめ返すと、俺の肩口でゆるゆると首を振った。
「弱くない……。生きててくれてありがとう……。それだけで十分だよ。直人さんにもお礼を言わなきゃ……」
突然直人の名前を出すから、どういうことか聞くと、梓は可笑しそうにクスクス笑って言った。
「直人さんね、柄沢さんよりずっとしつこかったんだ。着信拒否しようかなってくらいで。のぶさんや小泉さんからも連絡があったけど、直人さんほどじゃなくて」
思い出して梓は呆れたようにもう一度笑った。
そして教えてくれた。
直人とは二人きりで何度か会っていたらしい。東京を出るまでに数回。俺の高校時代の話や、優臣のことを聞いたみたいで……。けど、直人やのぶや小泉……、みんな俺と同じように梓を優臣に重ねていることを感じ取った梓は、やはり別れるという決断を変えることをしなかったらしい……。
けど最後に一つ、梓は直人にお願いをした。
俺が死なないように、きちんと見張っていてくれ、と、
梓はこの時……高校生だ。
信じられないな……。
どこまで俺は見透かされていたのだろう。どこまでこの精神状態を理解してくれていたんだろう。
「すごいな……梓」
寄せ合った体のまま、見つめ合って……。
五年ぶりに、キスを交わした。
ドキドキした。緊張なのか、嬉しさなのか、安堵なのか……。けど、喜びや幸せに満たされる感覚が確かにしたんだ。
「愛してる……。一緒に、生きて欲しい」
泣きながら、「うん」って聞こえないほど小さな声で頷いた梓に、ようやく……俺は高校時代のあの日から……先に進めるような気がした。
それはまるで、止まっていた時計の針が、カチっと一秒、進んだような感覚。
俺は梓と前に進む。梓が居れば、前へ進める。未来だって、見える気がする。
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