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現在:空席の右隣
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そうやって四か月が過ぎ、女性の人脈が昔のように戻ってきた。彼女ってわけじゃないけど、女の子と二人で遊ぶことも増えてきて……。
そんな中、俺はのぶと杉原さんの結婚お披露目パーティーに参列した。
受付で、杉原さんから紹介してもらった女性と久々に再会し、ひとしきり話しこんだ。するとそれを見ていた仲間が冷やかすように俺の腕をつつく。
「美人じゃ~ん。狙ってんの?」
「そんなんじゃないって」
否定はするが、独身の男共が女性を物色するように見ていたのは事実だ。もちろん、俺もその内の一人。
パーティーは本当に友人だけを招待しただけのようで、そこに親戚っぽい人物の姿は一人も見当たらなかった。
杉原さんをのぶから紹介されてから間もなく、パーティーの幹事をしようかと直人と二人で申し出たのだが、それはもう小泉に頼んだと言われた。「柄沢さんと直人さんはゲストとしてゆっくりして楽しんで欲しいんで!」なんて言って。
遠慮する必要もないのにと思いはしたが、「柄沢さんには友人代表でスピーチして欲しいんです!」と言われ、「直人さんは乾杯の音頭取ってもらってもいいですか!?」とそれぞれ仕事を振り分けられた。頼まれてしまえば、頷くほかない。
受付で渡された座席表を広げ、自分の席を探す。
俺の名前が記された席は高砂から一番近いテーブルで、店長と直人と俺と……そして──。
「…い……川、梓……?」
息を、一瞬忘れた。
そこに記されていた名前はまぎれもなく『井川梓』の三文字。
「ぉぃ……っ、おい! 直人!」
俺の前を歩く直人を思わず呼び止めると、不思議そうな顔をしてこちらを振り返った。
「これ……! 梓の名前が……っ、書かれてる」
座席表を見せるように突き出すと、直人は軽く腰をかがめてそれを確認した。そして特別驚くでもなく、困ったように笑った。
「そっか……。やっぱり招待したんだな」
どう……いうことだ?
「なんだそれ……。お前……お前ら、梓と連絡取れんのか……?」
まるでそんな口ぶりに聞こえた。
「知ってたのか⁉ 知ってて俺に教えなかったっていうのか⁉」
思わず直人に詰めったが、ぶんぶん首を振られた。
「違う違う、知らないって! 俺らも連絡先なんか知らないよ!」
「じゃあなんでこのパーティーに梓の名前が書かれてんだよ!」
「落ち着けって、柄沢!」
詰め寄る俺の胸板をドンっと一度叩いた直人に、今ここが祝いの席なのだということを改めて思い出す。司会席の付近には幹事の小泉とミツ、そして見たことのない女性が二人、せっせと準備をしている。俺が取り乱して会を台無しにするわけにはいかない。
とはいえ、落ち着けるわけもなかった。
「相談されたんだよ、のぶに。梓ちゃんを招待したいって」
なんで……。
「だから、実家に招待状を持って行けばいいんじゃないかってアドバイスした。連絡先は教えてもらえないだろうけど、招待状くらいは届けてくれるんじゃないかって。だけど、来る保証はない。ここに席は準備されてるようだけど、昨日の時点で、参加も不参加も、返答がなかったみたいだから」
実家……。あぁ、そうか。
結婚って理由なら、きっとご両親だって協力してくれるだろう。きっと招待状は梓の手元に届いている。けど……来るわけ……ないよな……。
「そっか……。そういうことか……」
俺の右隣。
今日一日、きっと空席だ……。
そんな中、俺はのぶと杉原さんの結婚お披露目パーティーに参列した。
受付で、杉原さんから紹介してもらった女性と久々に再会し、ひとしきり話しこんだ。するとそれを見ていた仲間が冷やかすように俺の腕をつつく。
「美人じゃ~ん。狙ってんの?」
「そんなんじゃないって」
否定はするが、独身の男共が女性を物色するように見ていたのは事実だ。もちろん、俺もその内の一人。
パーティーは本当に友人だけを招待しただけのようで、そこに親戚っぽい人物の姿は一人も見当たらなかった。
杉原さんをのぶから紹介されてから間もなく、パーティーの幹事をしようかと直人と二人で申し出たのだが、それはもう小泉に頼んだと言われた。「柄沢さんと直人さんはゲストとしてゆっくりして楽しんで欲しいんで!」なんて言って。
遠慮する必要もないのにと思いはしたが、「柄沢さんには友人代表でスピーチして欲しいんです!」と言われ、「直人さんは乾杯の音頭取ってもらってもいいですか!?」とそれぞれ仕事を振り分けられた。頼まれてしまえば、頷くほかない。
受付で渡された座席表を広げ、自分の席を探す。
俺の名前が記された席は高砂から一番近いテーブルで、店長と直人と俺と……そして──。
「…い……川、梓……?」
息を、一瞬忘れた。
そこに記されていた名前はまぎれもなく『井川梓』の三文字。
「ぉぃ……っ、おい! 直人!」
俺の前を歩く直人を思わず呼び止めると、不思議そうな顔をしてこちらを振り返った。
「これ……! 梓の名前が……っ、書かれてる」
座席表を見せるように突き出すと、直人は軽く腰をかがめてそれを確認した。そして特別驚くでもなく、困ったように笑った。
「そっか……。やっぱり招待したんだな」
どう……いうことだ?
「なんだそれ……。お前……お前ら、梓と連絡取れんのか……?」
まるでそんな口ぶりに聞こえた。
「知ってたのか⁉ 知ってて俺に教えなかったっていうのか⁉」
思わず直人に詰めったが、ぶんぶん首を振られた。
「違う違う、知らないって! 俺らも連絡先なんか知らないよ!」
「じゃあなんでこのパーティーに梓の名前が書かれてんだよ!」
「落ち着けって、柄沢!」
詰め寄る俺の胸板をドンっと一度叩いた直人に、今ここが祝いの席なのだということを改めて思い出す。司会席の付近には幹事の小泉とミツ、そして見たことのない女性が二人、せっせと準備をしている。俺が取り乱して会を台無しにするわけにはいかない。
とはいえ、落ち着けるわけもなかった。
「相談されたんだよ、のぶに。梓ちゃんを招待したいって」
なんで……。
「だから、実家に招待状を持って行けばいいんじゃないかってアドバイスした。連絡先は教えてもらえないだろうけど、招待状くらいは届けてくれるんじゃないかって。だけど、来る保証はない。ここに席は準備されてるようだけど、昨日の時点で、参加も不参加も、返答がなかったみたいだから」
実家……。あぁ、そうか。
結婚って理由なら、きっとご両親だって協力してくれるだろう。きっと招待状は梓の手元に届いている。けど……来るわけ……ないよな……。
「そっか……。そういうことか……」
俺の右隣。
今日一日、きっと空席だ……。
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