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現在:一人ぼっちの夏

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 八月。暑い暑い夏を、呆然と過ごす。直人やのぶがツーリングに行こうと何度も俺を誘ってくれたけど、全然そんな気分にはなれなかった。
 梓が居なくなって、優臣も居なくなって、真っ青の空を見上げながら、「なんで俺は生きているんだろう」と思った。
 去年、優臣のお父さんにも言われた。どうしてお前が生きて、優臣が死んだんだって。

 ほんとにそうだと思う。
 俺はなんで今、生きているんだろうか。

 今まで、ずっと優臣に会うためにここまで生きて来た。けど、優臣には会わせてもらえない。優臣に抱く想いと同じくらい好きになれると思った梓も……もういない。

 正直……今は、優臣に会えないことより、梓に会えないことの方が……堪えている。苦しい……、辛い……。俺はいつの間にか、こんなにも梓を愛していた。

 この辛さは、「優臣の仏壇に手を合わせるまでは絶対に諦めない」という強い想いをあっけなく挫いた。

「……死のうかな……」

「柄沢っ!!」

 突然大声で名前を呼ばれ、ビクっとして飛び上がった。

 驚いて、心臓をバクバクさせながら隣を見ると、怒った顔した直人が立っていた。

「な……何? 突然大声出すなよ、びっくりするだろ」

 だけど──。

「死ぬなんて言うな!! 死ぬなんて言うなよ!!! ふざけんなよ、お前っ!」

 聞かれていたらしい。
 口にした覚えはなかったけど、どうやら声になって呟いていたみたいだ……。
 「ごめん」と謝るべきか、「でも」と続けるべきか……迷った。だって、本当に辛いんだよ。優臣だけじゃなく、梓まで失ったんだ。

 楽しかったんだ、この二年……。優臣の幻に悩まされたりもしたけど、それでも梓を抱きしめると息の仕方を思い出すみたいに、体中満たされるような気がした。梓の笑った顔と、弾むように俺の名前を呼ぶ声が、優臣と過ごした日々にも勝る幸福感を味わわせてくれた。

 俺はちゃんと……梓を愛していた……。
 この想いに自信を無くしそうになったことは認めるよ。だけど……だけど。
 俺を振ったあの日。
 梓はまだ……俺とお揃いのネックレス、つけたままだった。外してなかった。梓はまだ俺の事を愛してくれている……。そうだって信じたかったのに……。

「だけど……、梓が……」

 家に行った。会わせてもらえなかった。
 電話した。すぐに切られた。
 学校前で待ち伏せた。無視された。

 少しも話を聞いて貰えない。塾に通い出している梓を、塾の前でじっと待っていたりもした。だけど、ようやく俺と目を合わせて声にした言葉は「迷惑です」のたった一言。

 もうこの世に居ない優臣だけじゃ、俺はもう……生きていけない。失って初めて気付くなんてバカみたいなこと……言いたくないけど、梓の存在は、俺をずっと支えてくれていたんだ。

「……いや、ごめん……。俺が悪かった……」
「二度とそんな事言うな! 二度とそんなこと考えるな! 死ぬなんて、絶対に許さないからな!!」

 そんじょそこらのアイドルよりよっぽど綺麗な顔をしている直人が、その瞳にいっぱい涙をため込んで、強く俺に言い聞かせた。

「……あぁ。……悪かった、直人……」


 決めた……。

 優臣の命日に……死のう。
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