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現在:一人ぼっちの夏

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「だったら、勉強の邪魔なんかしないって約束するから!」
「ダメだよ。僕が柄沢さんのこと考えちゃうもん。集中できないよ」

 そんなの……嘘だ。付き合い始めってわけでもあるまいし、集中できないほど俺の事を考えてるなんて信じられない。絶対に嘘だ!

「嘘つくなよっ! ほんとの事言えよ!」

 だけど梓は「それ以上の理由はない」って頑なに口を割らなかった。そして、別れ話の撤回だってしてはくれなかった。

「サヨウナラ」

 そんな冷たい声で、色のない瞳で……さよならなんて言わないでくれ……っ!

「なん……で、だよ。いやだ……、嫌だって、梓!」

 引き止めたけど、梓の意思は固かった。

 何がいけなかった。何がダメだった。いつからおかしくなってしまった……?

 いや、きっと最初からダメだったんだ。初めてコンビニで梓を見た時から、全部……ダメだった……。

 まだまだ子供で、恋愛対象になんか到底見ちゃいけないような梓を……一目見た瞬間から「綺麗」だと思った。凛とした立ち姿が、人に流されず、自分をしっかりと持っている梓のまっすぐな瞳が、最初から綺麗だと思っていた。

 俺はそこに、優臣の面影を見たんだ……。

「捨てないでくれ……」

 俺から離れていく梓の後ろ姿を見つめながら、俺は泣いて、泣いて……泣いて……。

 翌日。

「梓ちゃん、コンビニ辞めたんだってな」

 直人が俺にそう教えてくれた。

「なんで? 受験勉強?」

 オイル交換をしながら、俺は直人の質問に小さく首を傾げた。

「……さぁ。建前はそうなんだろ……。本音は……俺にもう会いたくないからだろ……」

 自分で言って、悲しくなった。バカだと思う。

「え……え? どういう……。え、柄沢……?」
「別れた。……振られたんだ……、昨日」

 言った俺に、直人は持っていたバインダーを落とした。
 なんで、って散々聞かれた。だけど俺だって分からないんだよ。本当に勉強に集中したいだけなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。俺には真実が分からない。
 去年の暮れ、確かに梓の態度がぎこちなかったことはあった。だけど、俺の誕生日を迎える三月には、前のようによく笑ってくれるようになって、一昨日までは何も変わらず俺を愛してくれていたはずなのに……。

 なのに……。

 なのに、なんで……突然……。

「俺が聞きたいんだよ……。俺なんで振られた? 俺何した? わかんねぇんだよ」

 どうしても納得いかない。往生際悪くこの事実が受け入れられない。

「今夜、もう一度梓の家に行ってみる。もう一回、ちゃんと話し合えるように交渉してみる」

 だけど、その後何度梓の家を訪ねても、電話しても、梓は俺との面会や話し合いに応じてはくれなかった。
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