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現在:一人ぼっちの夏

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 けどその虚しさも、梓が高校三年生に進級するかしないかの頃、パタリとなくなった。

「柄沢さん!」

 梓に笑顔が戻ったのだ。
 俺にまた可愛い笑顔を向けてくれて、甘えてくれて、心の底から安心した。こんなに嬉しいことなのかって思った。梓との別れを選ばなくて良かったと本気で思ったんだ。

「梓……!」

 何度も抱きしめた。何度もキスをした。何度も頭を撫で、何度も「好きだ」と伝えた。

 三月。俺の誕生日。幸せだった。ニコニコ笑う梓に泣きそうなくらい安心した。
 
 けど、その誕生日以降……。
 梓の隣から、優臣が消えた。

 見えない。
 今日も見えない。会いに来てくれない。
 優臣が居ない。

 梓の隣に立っていたら居たで、アレコレ考えてしまうのに、居なくなったら居なくなったで、寂しくて悲しかった。

 梓を選んだばかりに、優臣が消えてなくなってしまった。
 そう思えば思うほど、俺はどの選択をするのが正しかったのか分からなくなって、六月。

 死にたいと本気で思った。
 梓を殺して、自分も死ぬ。本気で考えた。

 エッチの最中。梓の首に手を伸ばして、絞首しそうになる寸前。



『僕、喧嘩は出来ないけど、みんなの怪我の手当てをするよ! 救護班ね!』



 そう言って頭の上に救急箱を乗せて笑った優臣の声が聞こえた気がして、俺ははっと我に返った。

 そうだ……。そうだった……。
 俺はもう……何も壊しちゃいけないんだ。優臣が怪我の手当てをしてくれたみたいに、俺も……、何かを直せるような、手当てが出来るような人間になろうって思って……。だから整備士になったし、もう何も壊さないって、何も失いたくないって……、大事なもの守ろうって……そう誓ったんじゃないか……っ!

 涙は堪えた。
 死にたいという思いも、必死に抑え込んだ。



 だけど翌月。
 何の前触れもなく、昨日まで人懐っこい笑顔で笑っていた梓から、別れを告げられた。

「……え?」

 意味が分からなくて、理解できなくて……。けど梓はニコリとも笑わずにもう一度俺に言った。

「別れて欲しいんだ。二年間ありがとうございました」

 そう言ってご丁寧に頭を下げる。

 ちょっと待ってくれ……。

「な……なんで? 俺なんかした? なんか言った? 怒らせたなら謝るよ。別れるなんて言わないでくれ……」
「ううん。ごめん。別れよう。何がってわけじゃないんだけど、終わりにして欲しいんだ」

 理由がないってことか? そんなの納得できるわけないだろ!

「嫌だ……、そんなの嫌に決まってるだろ? 他に好きな奴でもできたのか?」
「ううん。そんなんじゃないけど……」
「だったらなんでだよ!」
「僕受験生だしさ。勉強に集中したいんだ」
「そんなのが理由なのか!?」

 信じられなかった。

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