34 / 58
現在:一人ぼっちの夏
1
しおりを挟む
梓、高校二年の秋。
ふと違和感を覚えた。というのも……梓があまり笑わなくなった気がするのだ。気のせいかな、と最初はあまり気にしないようにしていたのだが、その年のクリスマス、いつもの花屋でついで買いしたポインセチアを見た梓が、ぐっと眉を寄せたのを見た。
「これ……どうしたの?」
すごく怪訝気に尋ねられ、「近くの花屋で買ってきた」と嘘をつくでもなく答えると、舌打ちしそうな態度で顔を背かせたのだ。
正直、何故梓がそんな目でポインセチアから目を逸らすのか、意味が分からなかった。
「……あまり、花とか、観葉植物とかは……好きじゃない?」
聞くと梓は「別に」と簡素な返答で済ませる。
きっと好きじゃないのだろう。可愛いなと思って買ったけど、買わなければ良かった……。俺は梓の目を盗んでポインセチアを目の付くところからそっと退けた。
一緒に夕食を食べ、去年のようにお酒を勧めたけど、きっぱり断られた。その態度はえらく冷たく感じた。プレゼントのコートを渡しても、去年のネックレスほど喜んではくれなくて……。俺は少し、それを悲しいと思った。
けど、悲しいと思って初めて「あぁ、やっぱり俺は梓の事が好きなんだ」って思えて、だったらどうして今梓がこんなに笑ってくれないのだろうと、悲しさが雪のように次々と降り積もる感覚がした。
でも、自業自得だろ、と自分が自分を責める。
自分は優臣の影を追いながら梓との関係を続けているのに、梓には自分だけを見て欲しいなんて……自分勝手もいいところだ。
ベッドで眠る梓を見つめ、俺はそっと布団を抜け出した。
梓から貰ったプレゼントを箱から取り出す。
ブリキで出来た結構大きめのバイクのオブジェ。アンティーク感のあるカッコイイ置物なんだけど、それが二台。大きいのと、少し小さいのと。
「カッコイイ……なぁ」
子供みたいにまじまじと細かい細工を眺め、自然と漏れる笑みを浮かべたまま、それをテレビ台へと飾る。
だけど、やっぱりなんか虚しくて……。
「……梓が……好きだ」
笑って欲しい。甘えて欲しい。
だけど今日、確信に変わった……。梓が俺から少し距離を取ろうとしていること。前はもっといっぱい体を寄せあっただろ? もっとたくさん笑ってただろ? ……いつから? いつからだろう……。
それでも……そんな状態でも、梓は俺を振らなかった。俺も梓と別れられなかった。
梓が全然笑わないわけじゃないんだ。楽しそうに笑い声を上げてくれることもあるし、スキンシップを取ってくれることもある。甘えた目で俺を見上げる時もある。好きだと、口にしてくれることもある。
手を繋ぎ合って映画を見たり、体を寄せ合って眠ったり、買い物デートに出かけたり、恋人らしいこと、普通に……いつも通りにやり通すのに……俺はなんだか、いつもすごく虚しさを感じた。
ふと違和感を覚えた。というのも……梓があまり笑わなくなった気がするのだ。気のせいかな、と最初はあまり気にしないようにしていたのだが、その年のクリスマス、いつもの花屋でついで買いしたポインセチアを見た梓が、ぐっと眉を寄せたのを見た。
「これ……どうしたの?」
すごく怪訝気に尋ねられ、「近くの花屋で買ってきた」と嘘をつくでもなく答えると、舌打ちしそうな態度で顔を背かせたのだ。
正直、何故梓がそんな目でポインセチアから目を逸らすのか、意味が分からなかった。
「……あまり、花とか、観葉植物とかは……好きじゃない?」
聞くと梓は「別に」と簡素な返答で済ませる。
きっと好きじゃないのだろう。可愛いなと思って買ったけど、買わなければ良かった……。俺は梓の目を盗んでポインセチアを目の付くところからそっと退けた。
一緒に夕食を食べ、去年のようにお酒を勧めたけど、きっぱり断られた。その態度はえらく冷たく感じた。プレゼントのコートを渡しても、去年のネックレスほど喜んではくれなくて……。俺は少し、それを悲しいと思った。
けど、悲しいと思って初めて「あぁ、やっぱり俺は梓の事が好きなんだ」って思えて、だったらどうして今梓がこんなに笑ってくれないのだろうと、悲しさが雪のように次々と降り積もる感覚がした。
でも、自業自得だろ、と自分が自分を責める。
自分は優臣の影を追いながら梓との関係を続けているのに、梓には自分だけを見て欲しいなんて……自分勝手もいいところだ。
ベッドで眠る梓を見つめ、俺はそっと布団を抜け出した。
梓から貰ったプレゼントを箱から取り出す。
ブリキで出来た結構大きめのバイクのオブジェ。アンティーク感のあるカッコイイ置物なんだけど、それが二台。大きいのと、少し小さいのと。
「カッコイイ……なぁ」
子供みたいにまじまじと細かい細工を眺め、自然と漏れる笑みを浮かべたまま、それをテレビ台へと飾る。
だけど、やっぱりなんか虚しくて……。
「……梓が……好きだ」
笑って欲しい。甘えて欲しい。
だけど今日、確信に変わった……。梓が俺から少し距離を取ろうとしていること。前はもっといっぱい体を寄せあっただろ? もっとたくさん笑ってただろ? ……いつから? いつからだろう……。
それでも……そんな状態でも、梓は俺を振らなかった。俺も梓と別れられなかった。
梓が全然笑わないわけじゃないんだ。楽しそうに笑い声を上げてくれることもあるし、スキンシップを取ってくれることもある。甘えた目で俺を見上げる時もある。好きだと、口にしてくれることもある。
手を繋ぎ合って映画を見たり、体を寄せ合って眠ったり、買い物デートに出かけたり、恋人らしいこと、普通に……いつも通りにやり通すのに……俺はなんだか、いつもすごく虚しさを感じた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる