ココア番外編

2wei

文字の大きさ
上 下
71 / 97
体温

しおりを挟む
「……なんで? 俺はべ……」
「僕は大嫌いなんだ」

 俺の言葉を遮るように比呂人は言った。まるでこの心を代弁するように。

「大嫌いなんだ……、亮介の作り笑いも、時折見せる憂い気な表情も、仕事部屋にこもる瞬間も、離れ離れで仕事をしている時間でさえも、今日だけは全部、嫌いになる」

 比呂人は、この日をきっと悔いている。今日が何の日か分かっているのなら、絶対にそうだ……。俺も、懺悔しかないから。

 けど、それを二人隠して、無理に笑顔作って、いつも通りを装って……。
 比呂人は、もう限界? こんな一日、消えてなくなればいい? でも、俺にとっての12月はそれだけじゃない。まだ、続くんだよ……。

 俯いてしまう俺に、比呂人は続けた。

「けど、全部自分のせい。無理に笑わせているのも、悲しい顔させてしまうのも、義務のように亮介を抱かなきゃいけないのも、全部……」

 義務。

 グサリと胸に刺さった。毎年、この日のエッチには、愛がなかったということだろうか。

 ……義務。義務。

 そんな風に思われていたのか。
 抱きたくなきゃ断ればいいのに。別に無理に笑わせようってサーベルなんか出してこなくてもいいし、晩酌に誘って、俺の鬱屈とした気分を取り除こうとか、本音聞き出そうとか、そんな小細工しなくていいのに……っ。

 膝の上の左手はぎゅっと拳に変わった。
 無理にでも笑おうとしたり、ついぼーっと考え事をしてしまったりする瞬間は、申し訳ないが確かにあると思う。けど別にそれ全てが比呂人のせいだなんてことはない。12月は……それだけじゃない。16日だけが、俺のX-Dayってわけじゃない。

 それは比呂人だって分かってるだろ?

 けど、「自分のせいだ」と責める比呂人に「そんなことないよ」と言ってやれなかった。それは、"義務" なんて言った比呂人に、どうしたって腹が立ってしまったからだ。

 黙り込み、視線を落とす俺に、比呂人は続けた。

「 "全部僕のせい" だよ。僕が悪い。だから亮介は、もうこの日に懺悔する必要は無いよ」

 握りしめた拳を見ていた俺の視線は、自然と比呂人へ向けられた。

 怒りが、すとんと落ちて潰れたようだった。

「亮介は一人で抱え込んで、一人で悩んで、一人で追い詰めすぎるでしょ? だから、この十二月の負担を、このへんでひとつリタイアしようよ。どうしてもって言うなら、僕がその続きをするから」

 ね?

 そう言って、比呂人は眉を垂らして笑った。

 "続きをする" なんてのは、比呂人の何よりもの優しさだ。
 俺の仕事や、俺のすること、決めることに、基本口出ししない男だ。そんな男が、"続きをするからもうやめろ" と言った。変わりに引き受けるなんて、比呂人、一番嫌いな役回りじゃないか。クレーム処理が一番嫌いだ……って、そういうのは森本くんに全部押し付けたいとか言ってたのに……。

 絶対に代われないこの感情。比呂人が続きをすると言ってくれたって、それは絶対に代われない。代わりたくても代われない。

 けど、そんなリアルが欲しいわけじゃない。その優しさが……嬉しいから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...