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「……なんで? 俺はべ……」
「僕は大嫌いなんだ」
俺の言葉を遮るように比呂人は言った。まるでこの心を代弁するように。
「大嫌いなんだ……、亮介の作り笑いも、時折見せる憂い気な表情も、仕事部屋にこもる瞬間も、離れ離れで仕事をしている時間でさえも、今日だけは全部、嫌いになる」
比呂人は、この日をきっと悔いている。今日が何の日か分かっているのなら、絶対にそうだ……。俺も、懺悔しかないから。
けど、それを二人隠して、無理に笑顔作って、いつも通りを装って……。
比呂人は、もう限界? こんな一日、消えてなくなればいい? でも、俺にとっての12月はそれだけじゃない。まだ、続くんだよ……。
俯いてしまう俺に、比呂人は続けた。
「けど、全部自分のせい。無理に笑わせているのも、悲しい顔させてしまうのも、義務のように亮介を抱かなきゃいけないのも、全部……」
義務。
グサリと胸に刺さった。毎年、この日のエッチには、愛がなかったということだろうか。
……義務。義務。
そんな風に思われていたのか。
抱きたくなきゃ断ればいいのに。別に無理に笑わせようってサーベルなんか出してこなくてもいいし、晩酌に誘って、俺の鬱屈とした気分を取り除こうとか、本音聞き出そうとか、そんな小細工しなくていいのに……っ。
膝の上の左手はぎゅっと拳に変わった。
無理にでも笑おうとしたり、ついぼーっと考え事をしてしまったりする瞬間は、申し訳ないが確かにあると思う。けど別にそれ全てが比呂人のせいだなんてことはない。12月は……それだけじゃない。16日だけが、俺のX-Dayってわけじゃない。
それは比呂人だって分かってるだろ?
けど、「自分のせいだ」と責める比呂人に「そんなことないよ」と言ってやれなかった。それは、"義務" なんて言った比呂人に、どうしたって腹が立ってしまったからだ。
黙り込み、視線を落とす俺に、比呂人は続けた。
「 "全部僕のせい" だよ。僕が悪い。だから亮介は、もうこの日に懺悔する必要は無いよ」
握りしめた拳を見ていた俺の視線は、自然と比呂人へ向けられた。
怒りが、すとんと落ちて潰れたようだった。
「亮介は一人で抱え込んで、一人で悩んで、一人で追い詰めすぎるでしょ? だから、この十二月の負担を、このへんでひとつリタイアしようよ。どうしてもって言うなら、僕がその続きをするから」
ね?
そう言って、比呂人は眉を垂らして笑った。
"続きをする" なんてのは、比呂人の何よりもの優しさだ。
俺の仕事や、俺のすること、決めることに、基本口出ししない男だ。そんな男が、"続きをするからもうやめろ" と言った。変わりに引き受けるなんて、比呂人、一番嫌いな役回りじゃないか。クレーム処理が一番嫌いだ……って、そういうのは森本くんに全部押し付けたいとか言ってたのに……。
絶対に代われないこの感情。比呂人が続きをすると言ってくれたって、それは絶対に代われない。代わりたくても代われない。
けど、そんなリアルが欲しいわけじゃない。その優しさが……嬉しいから。
「僕は大嫌いなんだ」
俺の言葉を遮るように比呂人は言った。まるでこの心を代弁するように。
「大嫌いなんだ……、亮介の作り笑いも、時折見せる憂い気な表情も、仕事部屋にこもる瞬間も、離れ離れで仕事をしている時間でさえも、今日だけは全部、嫌いになる」
比呂人は、この日をきっと悔いている。今日が何の日か分かっているのなら、絶対にそうだ……。俺も、懺悔しかないから。
けど、それを二人隠して、無理に笑顔作って、いつも通りを装って……。
比呂人は、もう限界? こんな一日、消えてなくなればいい? でも、俺にとっての12月はそれだけじゃない。まだ、続くんだよ……。
俯いてしまう俺に、比呂人は続けた。
「けど、全部自分のせい。無理に笑わせているのも、悲しい顔させてしまうのも、義務のように亮介を抱かなきゃいけないのも、全部……」
義務。
グサリと胸に刺さった。毎年、この日のエッチには、愛がなかったということだろうか。
……義務。義務。
そんな風に思われていたのか。
抱きたくなきゃ断ればいいのに。別に無理に笑わせようってサーベルなんか出してこなくてもいいし、晩酌に誘って、俺の鬱屈とした気分を取り除こうとか、本音聞き出そうとか、そんな小細工しなくていいのに……っ。
膝の上の左手はぎゅっと拳に変わった。
無理にでも笑おうとしたり、ついぼーっと考え事をしてしまったりする瞬間は、申し訳ないが確かにあると思う。けど別にそれ全てが比呂人のせいだなんてことはない。12月は……それだけじゃない。16日だけが、俺のX-Dayってわけじゃない。
それは比呂人だって分かってるだろ?
けど、「自分のせいだ」と責める比呂人に「そんなことないよ」と言ってやれなかった。それは、"義務" なんて言った比呂人に、どうしたって腹が立ってしまったからだ。
黙り込み、視線を落とす俺に、比呂人は続けた。
「 "全部僕のせい" だよ。僕が悪い。だから亮介は、もうこの日に懺悔する必要は無いよ」
握りしめた拳を見ていた俺の視線は、自然と比呂人へ向けられた。
怒りが、すとんと落ちて潰れたようだった。
「亮介は一人で抱え込んで、一人で悩んで、一人で追い詰めすぎるでしょ? だから、この十二月の負担を、このへんでひとつリタイアしようよ。どうしてもって言うなら、僕がその続きをするから」
ね?
そう言って、比呂人は眉を垂らして笑った。
"続きをする" なんてのは、比呂人の何よりもの優しさだ。
俺の仕事や、俺のすること、決めることに、基本口出ししない男だ。そんな男が、"続きをするからもうやめろ" と言った。変わりに引き受けるなんて、比呂人、一番嫌いな役回りじゃないか。クレーム処理が一番嫌いだ……って、そういうのは森本くんに全部押し付けたいとか言ってたのに……。
絶対に代われないこの感情。比呂人が続きをすると言ってくれたって、それは絶対に代われない。代わりたくても代われない。
けど、そんなリアルが欲しいわけじゃない。その優しさが……嬉しいから。
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