ココア番外編

2wei

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誕生日には花束を

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「水、漏れない?」
「多分な」

 苦笑いし、コップを重ねる向きがあーだこーだと喋りだすから、僕は一言「水漏れしたら次からは無しね」とばっさり切り捨ててしまった。
 ぷーっと唇を尖らせた亮介だが、「とりあえず着替えて来いよ」とスーツ姿の僕をリビングダイニングから追い出した。

 私服に着替えて戻ってくると、決して立派とは言えないけど、手作り感溢れる可愛い流しそうめんセットが完成していた。

 せっせと準備に勤しむ亮介。

 その姿はいつもと変わらないんだけど、僕が仕事をしている間、一人でこの流しそうめんのセットを手作りしてたんだと思うと、愛おしく見えないわけはなかった。
 紙コップを切っては繋き、切っては繋いでいるその姿を想像し、思わず頬が緩む。

 水漏れしたら次は無し、なんて……、言わなきゃ良かった。水漏れしたっていいじゃないか。そういうハプニングだって、亮介とだったら笑っていられるのに。

 誕生日だってそうだ。

 年間行事をあまり大切にしない僕は、遂に恋人の誕生日まで面倒がってしまったけど、こんなに無邪気で、こんなに献身的で、こんなに可愛い恋人……。

 バカだよね……。"安心" が長続きしてしまうと、それはいつからか "普通" になってしまう。その普通が普通じゃないことを、僕は忘れちゃいけないのに。

「亮介」

 呼ぶと、さっきの僕の悪態なんか微塵も気にしていない様子の亮介が僕を振り返る。
 もう慣れっこだよね……、本当に申し訳ない。

 ザルに入った素麺を持っている亮介をギュッと抱きしめる。

 突然抱きしめられた亮介は、頭の上にはてなマークを飛び散らし、よく分からぬまま片手で僕を抱き締め返してくれた。

「ん? なになに? どうした? やっぱ今日はデレの日なの? やった。超可愛いんだけど」

 素麺をテーブルに置き、両手で僕を僅かに引き離すと、優しい目でにっこりと微笑み、軽いキスをくれた。

「仕事で嫌なことあった? 忘れさせてあげる」

 なんていい男なんだろ。なんて優しい恋人なんだろ。

「……自分が嫌になっただけ」
「俺は好き」

 間髪入れない言葉。
 好きって、亮介は良く口にするようになった。この言葉を聞きたくて仕方ない頃があったけど、聞きすぎると "安心" して、それが "普通" になってしまう。

 贅沢なもんだ……。本当に……贅沢。

「亮介、たまには僕に冷たくして」
「は?」

 思いっきり怪訝な顔をされた。そりゃそうだ。優しい恋人に冷たくしてくれ、なんてどうかしてると思う。けど、好きと言われ慣れてしまった、なんて口が裂けても言えない。その言葉を欲しがっていたのは自分なのだから。
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