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誕生日には花束を
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ーside 比呂人ー
梅雨が明けるか明けないか。そんな季節。亮介の誕生日はやってくる。
ジメジメした高湿度の暑苦しさ。決して楽しい気分ではない。連日雨が降ろうとも暑いものは暑いし、中休みのように晴れ間が見えるとこれまた余計に湿気が体にまとわりつく。
梅雨も序盤はまだ春っぽさの残る気温だが、終盤ともなるとただの地獄だ。夏になるならなるで、さっさと梅雨明けすればいいのに。
この時期は毎年ほんとイラッとしてしまう。
それでも、7月中旬は亮介の誕生日だ。キリストの誕生日ははっきり関係ないと言いきれるが、恋人の誕生日はそうも言っていられない。
正直、もういい年なのだから誕生日など適当で……と言いたい気持ちは喉元まで出かかっているのだが、祝ってやらねば拗ねて拗ねて余計面倒なことになるに違いない。
で。今年の誕生日プレゼントをどうしようか、と7月に入ってからずっと悩んでいる。
ケーキは数日前、店のパティシエ明智くんに頼んで用意してもらうことになっている。ケーキはもはや亮介のためではない。僕のためだ。
それはいいとして、問題はプレゼント。誕生日当日は何とか休みを取れたから、亮介が仕事から帰ってくるまでの間に何か買いに行かなくちゃ。
「店長、今度の土曜日お休みなんですね。恋人と花火でも行くんですか?」
「え?」
事務仕事をしている後ろで、シフトを確認していたバーテンダーの木崎さんが突然そんなことを言い出した。
僕に恋人がいる、ということはスタッフ間で有名だが、それがまさかテレビでキラキラなアイドルをしている加藤亮介だとは誰も知らない。けどその加藤亮介と僕が仲良しの友達だということは、これまたスタッフ間で有名な話なのだ。
全然結びついていない様子。結びついてしまっても困るのだが……。
「その日、花火大会があるんですか?」
「えぇ、横浜の方で」
「あ、知ってるかも。あれってその日なんですか?」
こくこく頷きながらネッカチーフを結び終えた木崎さんは、「お誕生日なんでしょう?」といきなり核心を突いてきた。
「え?」
思わず聞き返すと、「明智さんから聞きました」と優しい笑顔で返答された。二人がそこまで仲良く喋っているところは見たことがないのだが、知らぬうちにそんな会話を交わしているとは……。
その夜、僕より先に仕事を終え帰ってきていた亮介は、キッチンで素麺を湯掻いていた。
誕生日は何時に帰ってくるのか、と尋ねると、それはそれは珍しそうな顔をされた。
「そんなこと聞いてくれんのかよ。どうした? 今日はデレの日か?」
そう言ってケラケラと楽しそうに笑い、「晩ご飯どうしようか困ってんだろ」と勝手に予測をつけた。
いや、ご飯の手配よりも花火に間に合うかどうかが問題で。
「いいって、いいって。俺は比呂人といちゃいちゃ出来たらそれで満足なんだから」
そんな色ボケ発言を堂々とぶっかまし、亮介は素麺をゆがき終えると、「じゃじゃーん!」なんて子供みたいな声を出して、半分に切った紙コップを繋ぎ合わせて作った長い滑り台を取り出した。
「見よ!今日はこれで流しそうめんをする!」
これは驚いた。
梅雨が明けるか明けないか。そんな季節。亮介の誕生日はやってくる。
ジメジメした高湿度の暑苦しさ。決して楽しい気分ではない。連日雨が降ろうとも暑いものは暑いし、中休みのように晴れ間が見えるとこれまた余計に湿気が体にまとわりつく。
梅雨も序盤はまだ春っぽさの残る気温だが、終盤ともなるとただの地獄だ。夏になるならなるで、さっさと梅雨明けすればいいのに。
この時期は毎年ほんとイラッとしてしまう。
それでも、7月中旬は亮介の誕生日だ。キリストの誕生日ははっきり関係ないと言いきれるが、恋人の誕生日はそうも言っていられない。
正直、もういい年なのだから誕生日など適当で……と言いたい気持ちは喉元まで出かかっているのだが、祝ってやらねば拗ねて拗ねて余計面倒なことになるに違いない。
で。今年の誕生日プレゼントをどうしようか、と7月に入ってからずっと悩んでいる。
ケーキは数日前、店のパティシエ明智くんに頼んで用意してもらうことになっている。ケーキはもはや亮介のためではない。僕のためだ。
それはいいとして、問題はプレゼント。誕生日当日は何とか休みを取れたから、亮介が仕事から帰ってくるまでの間に何か買いに行かなくちゃ。
「店長、今度の土曜日お休みなんですね。恋人と花火でも行くんですか?」
「え?」
事務仕事をしている後ろで、シフトを確認していたバーテンダーの木崎さんが突然そんなことを言い出した。
僕に恋人がいる、ということはスタッフ間で有名だが、それがまさかテレビでキラキラなアイドルをしている加藤亮介だとは誰も知らない。けどその加藤亮介と僕が仲良しの友達だということは、これまたスタッフ間で有名な話なのだ。
全然結びついていない様子。結びついてしまっても困るのだが……。
「その日、花火大会があるんですか?」
「えぇ、横浜の方で」
「あ、知ってるかも。あれってその日なんですか?」
こくこく頷きながらネッカチーフを結び終えた木崎さんは、「お誕生日なんでしょう?」といきなり核心を突いてきた。
「え?」
思わず聞き返すと、「明智さんから聞きました」と優しい笑顔で返答された。二人がそこまで仲良く喋っているところは見たことがないのだが、知らぬうちにそんな会話を交わしているとは……。
その夜、僕より先に仕事を終え帰ってきていた亮介は、キッチンで素麺を湯掻いていた。
誕生日は何時に帰ってくるのか、と尋ねると、それはそれは珍しそうな顔をされた。
「そんなこと聞いてくれんのかよ。どうした? 今日はデレの日か?」
そう言ってケラケラと楽しそうに笑い、「晩ご飯どうしようか困ってんだろ」と勝手に予測をつけた。
いや、ご飯の手配よりも花火に間に合うかどうかが問題で。
「いいって、いいって。俺は比呂人といちゃいちゃ出来たらそれで満足なんだから」
そんな色ボケ発言を堂々とぶっかまし、亮介は素麺をゆがき終えると、「じゃじゃーん!」なんて子供みたいな声を出して、半分に切った紙コップを繋ぎ合わせて作った長い滑り台を取り出した。
「見よ!今日はこれで流しそうめんをする!」
これは驚いた。
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