37 / 97
クリスマスデート
8
しおりを挟む
「せ………っ、先輩‼」
俺は雪村さんを振り返り、そこまで来ていた彼の両腕を掴んだ。
「奇跡です! やっぱり雪村さんは神っす!」
「うるせぇな、知ってるよ」
違うんだって! この比呂人が雪村さんのこと知ってたんだよ! しかもMOMOなんてグループ名まで知ってるんだって!
「ども、初めまして。雪村です」
綺麗なアイドルスマイルで雪村さんは比呂人へ会釈した。それをまた比呂人が緊張した面持ちで会釈し返す。
「日下です。初めまして」
雪村さんが手を差し出し、二人は握手を交わした。
「じゃ、俺行くわ。良かったな、待っててくれる優しい友達で」
雪村さんは物凄く含みのある言い方をして、コツンと俺の腕に拳をあてた。
「また飯行こうぜ。ゆっくり喋りてぇし」
その誘い方すら、何か……少し意味深に聞こえる。
手を振ることも、振り返ることもせず、雪村さんは去って行く。その後ろ姿を見つめていると、隣で比呂人は感嘆のため息を出した。
「亮介とは比べ物にならないね」
「否定はしねぇが、慎むべき言葉だソレは」
呆然と比呂人は雪村さんを見つめ、不意に俺へ紙切れを渡した。だがその視線は雪村さんを見たままだ。なんだと思って紙切れを受け取ると、そこには「リラクゼーション香楽」と書かれたレシート。
「……あぁ?」
「これで許してあげる」
”60分全身アロマコース 25,000円”
高いな、思いっきり。あぁ、そうかよ。だからこんなにいい匂いしてんのか、お前。
「……分かったよ、ちくしょうめ」
そう言うしかない。断ればたぶんまた置いてけぼりを食らうのだろう。今度こそ先に帰るかもしれない。
「クリスマスプレゼントは別に買ってもらうよ?」
厚かましいやつめ。
「何が欲しいんだよ」
「腕時計」
意外と実用的で現実的な物を指定された。車ないしバイク、とか言い出すかと思って構えていたのだが、あまりのリアルさに拍子抜けした。
「ボケろよ、そこは」
「じゃあ、ガンダムフィギュア」
「今更いいわ、そういうの」
比呂人は姿の見えなくなった雪村さんに、視線を俺へと戻した。
「お腹空いた」
「はい、奢らせてもらいます」
俺は比呂人に連れられるがままフードコートのラーメンを買わされ、ズルズル麺をすする比呂人をぼんやりと見つめた。
そして。
「ごめんな、比呂人」
せっかくのデートなのに、機嫌を悪くさせてしまった。その事実は変えられないから。
チラっと比呂人が俺を見て、またすぐにラーメンを啜った。
「いいよ。でも相手が雪村涼でも、嫉妬はするから」
そっちか。
そうか。喧嘩の件はスパ料金の立て替えでチャラってことか? そういうとこ、後腐れないよな、比呂人って。
「ごめん」
「いいよ。誘われたら断れないでしょ? アイドルといえ、どどうせ縦社会なんだから」
さすがというべきか。この物分りの良さ。
「雪村さんのこと、知ってたんだな」
聞いた俺に比呂人は薄っすら笑った。
俺は雪村さんを振り返り、そこまで来ていた彼の両腕を掴んだ。
「奇跡です! やっぱり雪村さんは神っす!」
「うるせぇな、知ってるよ」
違うんだって! この比呂人が雪村さんのこと知ってたんだよ! しかもMOMOなんてグループ名まで知ってるんだって!
「ども、初めまして。雪村です」
綺麗なアイドルスマイルで雪村さんは比呂人へ会釈した。それをまた比呂人が緊張した面持ちで会釈し返す。
「日下です。初めまして」
雪村さんが手を差し出し、二人は握手を交わした。
「じゃ、俺行くわ。良かったな、待っててくれる優しい友達で」
雪村さんは物凄く含みのある言い方をして、コツンと俺の腕に拳をあてた。
「また飯行こうぜ。ゆっくり喋りてぇし」
その誘い方すら、何か……少し意味深に聞こえる。
手を振ることも、振り返ることもせず、雪村さんは去って行く。その後ろ姿を見つめていると、隣で比呂人は感嘆のため息を出した。
「亮介とは比べ物にならないね」
「否定はしねぇが、慎むべき言葉だソレは」
呆然と比呂人は雪村さんを見つめ、不意に俺へ紙切れを渡した。だがその視線は雪村さんを見たままだ。なんだと思って紙切れを受け取ると、そこには「リラクゼーション香楽」と書かれたレシート。
「……あぁ?」
「これで許してあげる」
”60分全身アロマコース 25,000円”
高いな、思いっきり。あぁ、そうかよ。だからこんなにいい匂いしてんのか、お前。
「……分かったよ、ちくしょうめ」
そう言うしかない。断ればたぶんまた置いてけぼりを食らうのだろう。今度こそ先に帰るかもしれない。
「クリスマスプレゼントは別に買ってもらうよ?」
厚かましいやつめ。
「何が欲しいんだよ」
「腕時計」
意外と実用的で現実的な物を指定された。車ないしバイク、とか言い出すかと思って構えていたのだが、あまりのリアルさに拍子抜けした。
「ボケろよ、そこは」
「じゃあ、ガンダムフィギュア」
「今更いいわ、そういうの」
比呂人は姿の見えなくなった雪村さんに、視線を俺へと戻した。
「お腹空いた」
「はい、奢らせてもらいます」
俺は比呂人に連れられるがままフードコートのラーメンを買わされ、ズルズル麺をすする比呂人をぼんやりと見つめた。
そして。
「ごめんな、比呂人」
せっかくのデートなのに、機嫌を悪くさせてしまった。その事実は変えられないから。
チラっと比呂人が俺を見て、またすぐにラーメンを啜った。
「いいよ。でも相手が雪村涼でも、嫉妬はするから」
そっちか。
そうか。喧嘩の件はスパ料金の立て替えでチャラってことか? そういうとこ、後腐れないよな、比呂人って。
「ごめん」
「いいよ。誘われたら断れないでしょ? アイドルといえ、どどうせ縦社会なんだから」
さすがというべきか。この物分りの良さ。
「雪村さんのこと、知ってたんだな」
聞いた俺に比呂人は薄っすら笑った。
1
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる