ココア番外編

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答えはYES

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「おっはようございまぁす!」

 布団をめくり上げられ、比呂人が寝室に鍵をかけ忘れていたんだなと、俺は起き抜け一番苛立ちを覚えた。たまたま今はお互い背中を向けあい、離れて寝ていたからいいものの、危うく抱きしめていてもおかしくない状況だぞ、これ。

「あれ、もう朝?」

 比呂人はそう言って目覚まし時計を手に取り、分かりやすく舌打ちした。

「まだあと三十分は寝れるじゃん。起こすなよ、出てけ」

 乱暴な言葉遣い。
 そのまま布団を引っ張り上げ肩まですっぽり入り込むと、俺の方に向き直し、ぐっと肩を引っ張られた。

「亮介もまだ寝たいよね? ほら ”うん” ってさ」
「いや、言ってねぇ」
「言ったことにしといて! 僕は眠いの!」

 布団をめくり上げた熊のような男をちらりと見上げると、彼は困ったように肩をすくめた。

「加藤君も大変だね。この人、割りと我儘でしょ?」
「たまにね……」
「許してあげてね。我儘言ってる内はまだ元気な証だから」
「……うるさい。早く出ていって、森本くん」

 比呂人が布団の中でそう言うと、森本と呼ばれた熊のような男は、はいはいと呆れたように眉をあげ、部屋を出て行った。

 閉められた扉。

 リビングではスタッフ達の声がうっすらと聞こえ始める。そして眠いと怒った比呂人は俺に擦り寄り、甘えるように俺の肩に頭を乗せた。

「亮介」
「鍵閉め忘れたろ」
「……ごめん」

 掠れた声が謝罪し、肩に乗っていた頭もころんと枕に落ちた。
 背中を向けた比呂人を後ろから抱きしめる。

「拗ねてんの?」

 返事はない。けど、拗ねた。

「許して欲しけりゃ、みんなの前で公言しろよ。付き合ってるヤツがいるって」

 背中を向けたままの比呂人に囁く。
 分かってはいるが、比呂人は返事をしなかった。いろいろ思うこともあるのだろう。なにせ、昨夜の宴会ぶりから察するに、酒が入ると ”追及” が酷くなる傾向にあるスタッフ達だ。きっと紹介しろとか、写真を見せろとか、色々言われるのだろう。

「……言えない?」

 後ろ姿の比呂人を覗き込む。
 薄く目を開けている比呂人はしばらく動きもせずじっと考え込んでいたけど、最終的に背中を丸め、きゅっと目を閉じた。

「あ、そ。ま、いいけど」

 俺は比呂人から離れ、そのままベッドを降りた。

「早く起きてこいよ」

 比呂人はやはり返事をしなかったけど、引き止めることもしなかった。

「おはようございます」

 リビングに入ると、スタッフ達が寝ぼけ眼で俺を見上げ、はっと思い出したように目を見開いた。

「忘れてた!」
「加藤亮介!」

 芸能人をフルネームで呼ぶ感覚。分からなくもないけど、ちょっと……なんていうか……やめてほしい。
 夢じゃなかった、とでも言い出しそうなスタッフ達が慌てて衣服の乱れを整え、ボサボサ頭を手で押さえつける。いや、俺もボサボサだから気を遣わないでほしいのだが、心の声は届かない。
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