二番目の恋人 番外編

2wei

文字の大きさ
上 下
10 / 17
全部、俺

しおりを挟む
「いや、特にないが」
「じゃあ俺をデートに連れてってください」

 思いもよらぬ発言に、雪村が絶句したのは言うまでもない。
 だがしかし。

「いいけど、お前。俺にデートプランを考えさせようなんざ、随分いい根性してんだな」

 クスクス笑う雪村はすべてをお見通しのようだった。

「恋人の誕生日くらい、人に頼らず自分の力で喜ばせてやれよ」

 言われて西は黙り込むと、手に持っていたライダースジャケットへと視線を落とした。
 似合うかな、と思った。けど、好きじゃないかなと不安になった。女をとっかえひっかえしている時はこんな事悩まなかった。「好きなもの買ってやるから自分で選べ」と言えば、女は嬉しそうにしていたから。

 だけど、颯太はそうじゃない。欲しいものを買ってやると言っても、「要らない」という。颯太が喜んでついてくるのは、好きなものを食いに連れてってやると言った時だけだ。そういう時に西は、「物欲より食欲か」と急に颯太に男を感じてしまう。だけど、それが少し嬉しかったりもするのだ。可愛いと思う。

(まぁ、もっとも、女の方が食欲が強いって言われてるんだけどな)

 冷静にそんな事を思う西だが、例えそうでも西は颯太の食欲が好きなのだ。その時だけは、颯太が素直に喜ぶから。嬉しそうに自分の後をついてくるから。ありがとうと可愛い笑顔で見上げて来るから。

 だけど、後はよく分からない。何が欲しいのか、どこに行きたいのか、何をしたいのか、ちゃんと理解出来ていない。
 エッチがしたいのか、したくないのかでさえ分からない時がある。颯太が何を見ているのか、何を感じているのか、全然わからなくて、自分はどうするべきなのか途方に暮れそうになるのだ。

 西はまだ、颯太のことを全部理解出来ていない。それは颯太が時折見せるえらく冷静な瞳のせいだった。
 颯太は勉強の出来ないバカ、と思って接していても、突然そうやってすべてを悟ったような瞳をされると、西は何も言えなくなるほど怖くなってしまう。

 自分はもう、颯太の隣にはいられないかもしれない、なんて思ってしまうからだ。

「俺は……雪村さんの力を頼ってでも、颯太を喜ばせてやりたいと思ってます」

 迷いのない瞳。潔すぎる信念。

 雪村は堪らず言葉を詰まらせたが、すぐに吹き出し、くっくっと肩を揺らして笑った。

「分かった。いいぜ。ついて来いよ」

 言って雪村は踵を返すと、ショッピングモールを出て程近くの公園へと西を連れて来た。
 そしてベンチに腰を下ろし、隣に座って来た西の帽子をひょいっと奪った。それを自分の頭に乗せる雪村はその後何も喋らないまま、じーっとその場に座り続け、いくらか後に静かに立ち上がった。

「ドーナッツでも買いに行くか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ホストの彼氏ってどうなんですかね?

はな
BL
南美晴人には彼氏がいる。彼は『人気No.1ホステス ハジメ』である。 迎えに行った時に見たのは店から出てきて愛想良く女の子に笑いかけているのは俺の彼氏だったーーー 攻め 浅見肇 受け 南美晴人 ホストクラブについて間違っているところもあるかもしれないので、指摘してもらえたらありがたいです。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...