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全部、俺
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「いや、特にないが」
「じゃあ俺をデートに連れてってください」
思いもよらぬ発言に、雪村が絶句したのは言うまでもない。
だがしかし。
「いいけど、お前。俺にデートプランを考えさせようなんざ、随分いい根性してんだな」
クスクス笑う雪村はすべてをお見通しのようだった。
「恋人の誕生日くらい、人に頼らず自分の力で喜ばせてやれよ」
言われて西は黙り込むと、手に持っていたライダースジャケットへと視線を落とした。
似合うかな、と思った。けど、好きじゃないかなと不安になった。女をとっかえひっかえしている時はこんな事悩まなかった。「好きなもの買ってやるから自分で選べ」と言えば、女は嬉しそうにしていたから。
だけど、颯太はそうじゃない。欲しいものを買ってやると言っても、「要らない」という。颯太が喜んでついてくるのは、好きなものを食いに連れてってやると言った時だけだ。そういう時に西は、「物欲より食欲か」と急に颯太に男を感じてしまう。だけど、それが少し嬉しかったりもするのだ。可愛いと思う。
(まぁ、もっとも、女の方が食欲が強いって言われてるんだけどな)
冷静にそんな事を思う西だが、例えそうでも西は颯太の食欲が好きなのだ。その時だけは、颯太が素直に喜ぶから。嬉しそうに自分の後をついてくるから。ありがとうと可愛い笑顔で見上げて来るから。
だけど、後はよく分からない。何が欲しいのか、どこに行きたいのか、何をしたいのか、ちゃんと理解出来ていない。
エッチがしたいのか、したくないのかでさえ分からない時がある。颯太が何を見ているのか、何を感じているのか、全然わからなくて、自分はどうするべきなのか途方に暮れそうになるのだ。
西はまだ、颯太のことを全部理解出来ていない。それは颯太が時折見せるえらく冷静な瞳のせいだった。
颯太は勉強の出来ないバカ、と思って接していても、突然そうやってすべてを悟ったような瞳をされると、西は何も言えなくなるほど怖くなってしまう。
自分はもう、颯太の隣にはいられないかもしれない、なんて思ってしまうからだ。
「俺は……雪村さんの力を頼ってでも、颯太を喜ばせてやりたいと思ってます」
迷いのない瞳。潔すぎる信念。
雪村は堪らず言葉を詰まらせたが、すぐに吹き出し、くっくっと肩を揺らして笑った。
「分かった。いいぜ。ついて来いよ」
言って雪村は踵を返すと、ショッピングモールを出て程近くの公園へと西を連れて来た。
そしてベンチに腰を下ろし、隣に座って来た西の帽子をひょいっと奪った。それを自分の頭に乗せる雪村はその後何も喋らないまま、じーっとその場に座り続け、いくらか後に静かに立ち上がった。
「ドーナッツでも買いに行くか」
「じゃあ俺をデートに連れてってください」
思いもよらぬ発言に、雪村が絶句したのは言うまでもない。
だがしかし。
「いいけど、お前。俺にデートプランを考えさせようなんざ、随分いい根性してんだな」
クスクス笑う雪村はすべてをお見通しのようだった。
「恋人の誕生日くらい、人に頼らず自分の力で喜ばせてやれよ」
言われて西は黙り込むと、手に持っていたライダースジャケットへと視線を落とした。
似合うかな、と思った。けど、好きじゃないかなと不安になった。女をとっかえひっかえしている時はこんな事悩まなかった。「好きなもの買ってやるから自分で選べ」と言えば、女は嬉しそうにしていたから。
だけど、颯太はそうじゃない。欲しいものを買ってやると言っても、「要らない」という。颯太が喜んでついてくるのは、好きなものを食いに連れてってやると言った時だけだ。そういう時に西は、「物欲より食欲か」と急に颯太に男を感じてしまう。だけど、それが少し嬉しかったりもするのだ。可愛いと思う。
(まぁ、もっとも、女の方が食欲が強いって言われてるんだけどな)
冷静にそんな事を思う西だが、例えそうでも西は颯太の食欲が好きなのだ。その時だけは、颯太が素直に喜ぶから。嬉しそうに自分の後をついてくるから。ありがとうと可愛い笑顔で見上げて来るから。
だけど、後はよく分からない。何が欲しいのか、どこに行きたいのか、何をしたいのか、ちゃんと理解出来ていない。
エッチがしたいのか、したくないのかでさえ分からない時がある。颯太が何を見ているのか、何を感じているのか、全然わからなくて、自分はどうするべきなのか途方に暮れそうになるのだ。
西はまだ、颯太のことを全部理解出来ていない。それは颯太が時折見せるえらく冷静な瞳のせいだった。
颯太は勉強の出来ないバカ、と思って接していても、突然そうやってすべてを悟ったような瞳をされると、西は何も言えなくなるほど怖くなってしまう。
自分はもう、颯太の隣にはいられないかもしれない、なんて思ってしまうからだ。
「俺は……雪村さんの力を頼ってでも、颯太を喜ばせてやりたいと思ってます」
迷いのない瞳。潔すぎる信念。
雪村は堪らず言葉を詰まらせたが、すぐに吹き出し、くっくっと肩を揺らして笑った。
「分かった。いいぜ。ついて来いよ」
言って雪村は踵を返すと、ショッピングモールを出て程近くの公園へと西を連れて来た。
そしてベンチに腰を下ろし、隣に座って来た西の帽子をひょいっと奪った。それを自分の頭に乗せる雪村はその後何も喋らないまま、じーっとその場に座り続け、いくらか後に静かに立ち上がった。
「ドーナッツでも買いに行くか」
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