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真実

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* * * * *

 コトの事態に気付いたのは、6月下旬のことだった。この事務所のスポンサーのひとつが、自分の家だと知る機会があったのだ。

 内海は愕然とした。
 約二年。何も知らず、何も知らされず、事務所ここで楽しい生活を送っていた。
 だが、これすべてが完全に仕組まれていたのだということを知り、怒りなのか呆れなのか、何とも表現し難い真っ黒な感情に支配されて、そして思った。

 志藤歩と自分は一緒ではないかと。

 正確に言えばそりゃもちろん、全然違う。だけど、噂によれば志藤は事務所で唯一オーディションを受けていないタレント。内海はオーディションこそ受けたが、完全なる出来レースだったのだ。志藤は社長の寵愛の元で悠々とその名を上げた。じゃあ、自分はどうなるんだと。

 社長を揺すったわけではない。
 ただ、「事務所とうち、パイプ太いらしいっすね」と言っただけだ。

 社長は驚いたように目を見開き、そして、薄ら不敵に微笑んだ。

「どう? ここの生活は、楽しいかしら?」

 睨みあうようにお互い視線を絡めたまま。

「えぇ、それなりに」

 素直に答えると、社長は内海に言った。

「努力を惜しまないで。楽しいから頑張るんじゃないの。 頑張るから楽しいのよ。貴方の ”一生懸命” を、私はずっと見てるわ」

 それはつまり、今までもずっと見ていたかのような口ぶり。だとしたら、一生懸命頑張れば志藤歩と同じステージに行ける。その確約を貰った気がした。

 だけど、真っ黒いこの感情がそれだけで、美しく浄化されるはずもなく、騙していた家族も事務所も許せなかった。アイドルになってみないかと父に事務所のパンフレットを見せられた時の絶望なんかより、ずっとずっと苦しくて悲しくて、辛かった。

 だって、出来レースだったのだ。
 つまりは、完全に息子を家から追い出す道を、親が選んだということ。そこまで出来の悪い息子でいるつもりなどなかった。いつかは家の仕事をするんだとぼんやり考えてもいた。あの家にちゃんと居場所があるんだと思っていたかったのに。

 頑張れば志藤と同じステージに立てる。だけど、それはつまり家からどんどんどんどん離れていくということ。それを親が、望んでいたということ。

 ──まだ、たった14歳。

 心は、荒んだ。
 もちろん、親は玲を捨てたわけではなかった。心の育成と協調性を培い、甘やかされた坊ちゃん気質と、野良犬としても生きていけるような両極端な荒々しさを、正常な位置まで叩き直したかっただけ。

 しかしそんなこと、内海は知る由もない。そもそも今は、きっと聞く耳だって持てないだろう。


 俺はいらない子供。
 だったら、ここでのし上がる。


 内海は、家を、親を、自ら捨てる道を選んだ。 

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