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「沖、行くな」
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けど、込み上げてくるその衝動を堪えられたのは、隣に立つ雪村が固く固く拳を作っていたから。自分と同じように耐えているのだと思うと、太一は深呼吸一つでその衝動をすっとかき消すことができた。
「ユキ……、聞いていい?」
次に始まるMellowのステージのためにバタバタしている舞台裏。
邪魔にならない位置にいるとはいえ、太一の静かな声に、佐久間を含むMOMOメンバーはその喧騒がまるで消えたかのように彼に注目した。
「オレらに……勝算はある?」
静寂かと思うほど、五人の周りに緊張した空気が張り付く。
注目は太一からゆっくりと雪村に移り、眉一つ動かさない雪村が、幾分か後に口を開いた。
「……あるだろ」
テキスト通りのような返答。
気休めか? いや、違う。
雪村は太一から視線を逸らして腕を組むとモニターに流れるCMを見ながら話し出した。
「そもそもドリームキャッチは世代幅広く人気があるけど、アイドル枠の俺たちの支持者なんてのは、大概同年代なんだよ。黒猫はターゲット層を定めずに万人を狙っているつもりなんだろうけど、たぶん20代中盤から後半のお姉様方が好きそうなパフォーマンスだ。でもそうなると、黒猫の二人の年齢が……若すぎる。そこのバランスの崩れは……たぶんデカイ」
険しい表情で持論を述べた雪村。
半分は本気で言っている。けど、もう半分はこの持論にそこまでの自信を持っていない。でも、自信を持っていなくても言い切ることの方がいいと判断した。
メンバーを、太一を、不安にさせるわけにはいかないから。今の自分たちに自信を持って欲しいから。
いや、自信を持つべきだと思ったのだ。自信を持っていいだけのことをやり切ったのだから。
「そ……っか」
「お前のその分析力すげーな! いっつもそんな事考えてんのか!?」
太一の言葉に被るように佐久間が声を上げ、ガハハ!と笑う。
「敵を調べるのは当前だろ? 俺は重装備で常に戦闘態勢だぜ?」
冗談っぽく両手で銃を構える振りをする雪村に、「怖ぇわ!」と佐久間は楽しそうに笑った。
二人の明るい声と笑い声の掛け合いに、残る三人にも思わず笑みがこぼれる。雪村や佐久間という影響力のある人間の言葉や笑顔は、どんな場面においても余裕のなくなった人の心にゆとりを与えてくれる。
さっきのステージでも、泣きそうになってしまった太一に心のゆとりをくれたのは志藤の優しい笑顔だった。
大丈夫だ、と安心させてくれる人がそばにいる事は、きっと何者にも代え難く、とても恵まれ幸せな事だ。誇るべき事なのだ。
太一は、いつか自分も誰かのそういう存在になりたいと思った。
「ユキ……、聞いていい?」
次に始まるMellowのステージのためにバタバタしている舞台裏。
邪魔にならない位置にいるとはいえ、太一の静かな声に、佐久間を含むMOMOメンバーはその喧騒がまるで消えたかのように彼に注目した。
「オレらに……勝算はある?」
静寂かと思うほど、五人の周りに緊張した空気が張り付く。
注目は太一からゆっくりと雪村に移り、眉一つ動かさない雪村が、幾分か後に口を開いた。
「……あるだろ」
テキスト通りのような返答。
気休めか? いや、違う。
雪村は太一から視線を逸らして腕を組むとモニターに流れるCMを見ながら話し出した。
「そもそもドリームキャッチは世代幅広く人気があるけど、アイドル枠の俺たちの支持者なんてのは、大概同年代なんだよ。黒猫はターゲット層を定めずに万人を狙っているつもりなんだろうけど、たぶん20代中盤から後半のお姉様方が好きそうなパフォーマンスだ。でもそうなると、黒猫の二人の年齢が……若すぎる。そこのバランスの崩れは……たぶんデカイ」
険しい表情で持論を述べた雪村。
半分は本気で言っている。けど、もう半分はこの持論にそこまでの自信を持っていない。でも、自信を持っていなくても言い切ることの方がいいと判断した。
メンバーを、太一を、不安にさせるわけにはいかないから。今の自分たちに自信を持って欲しいから。
いや、自信を持つべきだと思ったのだ。自信を持っていいだけのことをやり切ったのだから。
「そ……っか」
「お前のその分析力すげーな! いっつもそんな事考えてんのか!?」
太一の言葉に被るように佐久間が声を上げ、ガハハ!と笑う。
「敵を調べるのは当前だろ? 俺は重装備で常に戦闘態勢だぜ?」
冗談っぽく両手で銃を構える振りをする雪村に、「怖ぇわ!」と佐久間は楽しそうに笑った。
二人の明るい声と笑い声の掛け合いに、残る三人にも思わず笑みがこぼれる。雪村や佐久間という影響力のある人間の言葉や笑顔は、どんな場面においても余裕のなくなった人の心にゆとりを与えてくれる。
さっきのステージでも、泣きそうになってしまった太一に心のゆとりをくれたのは志藤の優しい笑顔だった。
大丈夫だ、と安心させてくれる人がそばにいる事は、きっと何者にも代え難く、とても恵まれ幸せな事だ。誇るべき事なのだ。
太一は、いつか自分も誰かのそういう存在になりたいと思った。
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