276 / 312
「沖、行くな」
13
しおりを挟む
暗転からのピンスポ。何も入っていない空の鳥かご。そこに自分のストールを被せた黒野。不敵な笑みを浮かべ、そのストールを取ると、中には真っ白の鳩が一羽現れた。
その鳩を掴み出し、猫居は何も入っていない自分のシルクハットの中に鳩を入れて隠すと、「1、2、3」で帽子をくるりと裏返した。すると、帽子の中から三羽の鳩が一斉に飛び出し、同時に曲の前奏が会場へ大きく鳴り響いた。
大歓声と拍手が湧き上がる。
テレビ的な絵面は文句なしの完璧なマジック。華やかさやダイナミックさはカメラを通した方がより分かりやすいだろう。
一曲目は、一次予選でも歌ったメイン曲。
二人の野生的で妖艶な魅力を思う存分見せ付けるような曲だ。
やはり掴みはメイン曲。MOMOと同じだ。
披露できる曲はたった4曲。だが、たった4曲であってもセットリストは大事だ。
BLACK CATのステージは実にエンターテイメントだった。イリュージョンをあちこちに挟み込み、客を飽きさせない。ルージュという曲では唇の形をしたベンチに二人で腰掛け、リフトで空中を舞った。最後の曲中には紙吹雪が飛ばされたが、ご丁寧にこの紙はトランプを模してある。
モニタリングしていたMOMOと佐久間はBLACK CATのステージにそれぞれの想いを抱いていたが、全員一様にさすがのステージだと思った。二人の持つ雰囲気を崩すことなく、最初から最後までエンターテイメントを追求している。歌って踊るだけだったMOMOとは全く違うステージ。
一番最後に黒野が何も持っていなかったはずの両手からトランプをばら撒くと、照明で明るかったステージはピンスポだけを残し暗闇となる。そして、そのピンスポから二人は背を向けブラックアウトした。
一点を照らしたそこには、シルクハットとトランプ。
一瞬静まりかえり、すぐに爆発的な歓声があがった。作り込まれたステージ。二人の魅力に、二人の作り出す世界に、気付かないうちにすっかり取り込まれてしまうような、幻想的なステージだったといえるだろう。
完璧なステージをこなせたと自負していたMOMOの表情は否が応でも険しくなる。
BLACK CATとではあまりタイプが違いすぎて、どこをどう比べるべきかも分からないが、自分たちでさえ魅入ってしまうほどのエンターテイメント性が彼らにはあったから。
黒野は口先だけの男ではない。
分かってはいたが、恐ろしいほどにまざまざとそれを見せつけられたようだった。
ガツガツとダンスに拘っているわけではないのに、手足の長い彼らのダンスはずるいほどに美しく見えた。見せ方を知り尽くしているのだろう。
きゅっと唇を噛み、モニターに流れているCMを見ながら、太一は目に焼き付いて離れない野瀬と中原の団扇の文字を何度も何度も繰り返した。
沖行くな
こんなにも別れを惜しんでくれている人がいる。こんなにも応援してくれている人がいるのに。
(負けたくない……!)
祈るしかないこの現状が、今一番辛く苦しいことを知る。負けないための準備をして、アレコレ忙しくしている時の方がずっとずっと良かった気がする。
けどもう自分たちのステージは終わってしまって、後に続く2グループの「勝ちに行くステージ」を見るだけの時間。今すぐステージに飛び出して、俺たちに票を下さい!と叫べるものならそうしたい。手段を選ばず、同情票を煽ってやりたいくらいの気持ちになってしまう。
その鳩を掴み出し、猫居は何も入っていない自分のシルクハットの中に鳩を入れて隠すと、「1、2、3」で帽子をくるりと裏返した。すると、帽子の中から三羽の鳩が一斉に飛び出し、同時に曲の前奏が会場へ大きく鳴り響いた。
大歓声と拍手が湧き上がる。
テレビ的な絵面は文句なしの完璧なマジック。華やかさやダイナミックさはカメラを通した方がより分かりやすいだろう。
一曲目は、一次予選でも歌ったメイン曲。
二人の野生的で妖艶な魅力を思う存分見せ付けるような曲だ。
やはり掴みはメイン曲。MOMOと同じだ。
披露できる曲はたった4曲。だが、たった4曲であってもセットリストは大事だ。
BLACK CATのステージは実にエンターテイメントだった。イリュージョンをあちこちに挟み込み、客を飽きさせない。ルージュという曲では唇の形をしたベンチに二人で腰掛け、リフトで空中を舞った。最後の曲中には紙吹雪が飛ばされたが、ご丁寧にこの紙はトランプを模してある。
モニタリングしていたMOMOと佐久間はBLACK CATのステージにそれぞれの想いを抱いていたが、全員一様にさすがのステージだと思った。二人の持つ雰囲気を崩すことなく、最初から最後までエンターテイメントを追求している。歌って踊るだけだったMOMOとは全く違うステージ。
一番最後に黒野が何も持っていなかったはずの両手からトランプをばら撒くと、照明で明るかったステージはピンスポだけを残し暗闇となる。そして、そのピンスポから二人は背を向けブラックアウトした。
一点を照らしたそこには、シルクハットとトランプ。
一瞬静まりかえり、すぐに爆発的な歓声があがった。作り込まれたステージ。二人の魅力に、二人の作り出す世界に、気付かないうちにすっかり取り込まれてしまうような、幻想的なステージだったといえるだろう。
完璧なステージをこなせたと自負していたMOMOの表情は否が応でも険しくなる。
BLACK CATとではあまりタイプが違いすぎて、どこをどう比べるべきかも分からないが、自分たちでさえ魅入ってしまうほどのエンターテイメント性が彼らにはあったから。
黒野は口先だけの男ではない。
分かってはいたが、恐ろしいほどにまざまざとそれを見せつけられたようだった。
ガツガツとダンスに拘っているわけではないのに、手足の長い彼らのダンスはずるいほどに美しく見えた。見せ方を知り尽くしているのだろう。
きゅっと唇を噛み、モニターに流れているCMを見ながら、太一は目に焼き付いて離れない野瀬と中原の団扇の文字を何度も何度も繰り返した。
沖行くな
こんなにも別れを惜しんでくれている人がいる。こんなにも応援してくれている人がいるのに。
(負けたくない……!)
祈るしかないこの現状が、今一番辛く苦しいことを知る。負けないための準備をして、アレコレ忙しくしている時の方がずっとずっと良かった気がする。
けどもう自分たちのステージは終わってしまって、後に続く2グループの「勝ちに行くステージ」を見るだけの時間。今すぐステージに飛び出して、俺たちに票を下さい!と叫べるものならそうしたい。手段を選ばず、同情票を煽ってやりたいくらいの気持ちになってしまう。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
それはきっと、気の迷い。
葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ?
主人公→睦実(ムツミ)
王道転入生→珠紀(タマキ)
全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる