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「沖、行くな」
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メイン曲は予選でも歌った「MOMO!!」だが、今歌っているこの曲こそがMOMOの真骨頂ともいえるだろう。どのグループよりもダンスにこだわり、どのグループよりもシンクロ率を上げる。MOMOのセールスポイントを、4人はダンスに絞り込んでいた。
見ろ、これがMOMOだ。
そう言わんばかりに、磨き上げたこの曲へ4人はすべてを注ぐ。
メトロノームは狂わない。緊張やプレッシャーに負けず、全員が怒涛のステップに集中し、周りにも気を配り、完璧にやりきって見せた。
爆発するような歓声。ここ一番の大歓声だった。
心音が狂うんじゃないかと思うほどの大歓声に、4人は確かな手応えを感じた。
最後の曲のイントロが流れ始め、4人はスタッフから手渡された籠を片手に、再び二手に分かれて花道へ駆け出していく。
「行くぞ、ラストー!! 声出せー! Join us !!」
メイン曲同様、最後もコール&レスポンスの多い曲だ。
雪村の煽りを聞きながら、太一は上手の花道を駆け出していく志藤の後を追いかけた。
先ほどの一曲でこれほどまでかというくらいの汗をかいた。だけど、目の前の志藤はそれをおもむろに拭ったりしない。
だから太一も流れて止まらない汗を拭わなかった。本当は暑すぎて服だって脱ぎたい気分だけど、そういうわけにはいかない。
志藤が前を走り、手本を見せてくれる。アリーナのファンへ、一階席からてっぺんにいるすべてのファンへ。手を振り、笑顔を見せ、ピースして、指をさして、投げキッスする。そしてタイミングを見計らい、籠の中にあるサイン入りのカラーボールを客席に投げ込んでいく。
太一も見習い、同じようにカラーボールを客席に投げ込んだ。
その時。ふと目に止まった「沖」の文字。
たくさんたくさん……たくさんたくさんある太一団扇の中で、その団扇だけは強烈な一言が添えられていた。
『沖 行くな』
絶句だった。
楽しかった気分は一気に現実に引き戻され、今自分が置かれている状況に、足がすくみそうになる。
団扇の持ち主の顔がはっきり見えるわけじゃない。だけど、それが野瀬と中原なのだという確信は持てた。そんなことを言える人間は彼らくらいしかいないから。
― 行くな ―
その言葉に、太一は心底泣きそうになった。
“勝て”でも、“生き残れ”でもない。“行くな”と言われたのだ。
もちろん、行きたくはない。その為に必死にここまでやって来たのだ。アメリカ行くつもりなど、毛頭ない。だけど、どうなるかなんて……誰にも分からないから。これが現実だから。
見ろ、これがMOMOだ。
そう言わんばかりに、磨き上げたこの曲へ4人はすべてを注ぐ。
メトロノームは狂わない。緊張やプレッシャーに負けず、全員が怒涛のステップに集中し、周りにも気を配り、完璧にやりきって見せた。
爆発するような歓声。ここ一番の大歓声だった。
心音が狂うんじゃないかと思うほどの大歓声に、4人は確かな手応えを感じた。
最後の曲のイントロが流れ始め、4人はスタッフから手渡された籠を片手に、再び二手に分かれて花道へ駆け出していく。
「行くぞ、ラストー!! 声出せー! Join us !!」
メイン曲同様、最後もコール&レスポンスの多い曲だ。
雪村の煽りを聞きながら、太一は上手の花道を駆け出していく志藤の後を追いかけた。
先ほどの一曲でこれほどまでかというくらいの汗をかいた。だけど、目の前の志藤はそれをおもむろに拭ったりしない。
だから太一も流れて止まらない汗を拭わなかった。本当は暑すぎて服だって脱ぎたい気分だけど、そういうわけにはいかない。
志藤が前を走り、手本を見せてくれる。アリーナのファンへ、一階席からてっぺんにいるすべてのファンへ。手を振り、笑顔を見せ、ピースして、指をさして、投げキッスする。そしてタイミングを見計らい、籠の中にあるサイン入りのカラーボールを客席に投げ込んでいく。
太一も見習い、同じようにカラーボールを客席に投げ込んだ。
その時。ふと目に止まった「沖」の文字。
たくさんたくさん……たくさんたくさんある太一団扇の中で、その団扇だけは強烈な一言が添えられていた。
『沖 行くな』
絶句だった。
楽しかった気分は一気に現実に引き戻され、今自分が置かれている状況に、足がすくみそうになる。
団扇の持ち主の顔がはっきり見えるわけじゃない。だけど、それが野瀬と中原なのだという確信は持てた。そんなことを言える人間は彼らくらいしかいないから。
― 行くな ―
その言葉に、太一は心底泣きそうになった。
“勝て”でも、“生き残れ”でもない。“行くな”と言われたのだ。
もちろん、行きたくはない。その為に必死にここまでやって来たのだ。アメリカ行くつもりなど、毛頭ない。だけど、どうなるかなんて……誰にも分からないから。これが現実だから。
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