上 下
259 / 312
決勝戦開幕!

しおりを挟む
 隣の楽屋ではBLACK CATに呼び出しがかかり、二人はスパンコールのあしらわれた派手めのジャケットを羽織ると、手品に必要な小道具を手に持った。

「ついに来たね」

 物腰の柔らかい猫居の声がふんわりと黒野へ掛けられると、黒野はトランプを手にしたまま深く深呼吸した。

「あぁ、ついにきた」
「緊張してる?」

 シルクハットを手にしながら、猫居は黒野を覗き込んだ。
 日本人離れした端正な顔は「どれどれ、どんな顔をしてるんだい?」と少し面白がっているような無邪気な瞳で、黒野はバシッとその顔に掌を押し付けた。

「緊張してるのは、マジックが失敗したらどうしようってことくらいだ。勝つのは俺たち。残念ながらビビってねぇ」

 猫居は顔面を黒野の手で覆われながら、ふふっと小さく笑った。

「そう。なら安心した」

 そう言って黒野の手を退けると、優しくその手を握った。

「ねぇ、トラ。俺負けたくないよ」

 その言葉は、少しばかり猫居らしくなかった。こいつでもそんなことを思うのか、と黒野は目を丸くしたが、続けられた言葉に思わず笑ってしまう。

「だって負けたら、もうトラと一緒にユニット組めないかもしれない」

 グループ編成は社長の独断だ。
 現在事務所からデビューしているグループは三組。内一組は既に解散している。今後どのような形でグループが生まれていくか、誰も知らない。このチャンスを逃せば、二度と同じグループとして活動させてもらえないかもしれない。そればっかりは、エッグも社員たちですらもよく分かっていなかった。

「お前、そんな心配してんのか? バカだな」

 黒野は握られた手をそっと握り返すと、自信に満ちた顔で口角を吊りあげた。

「まず負けない。負けたとしても、俺が他のヤツと組むと思う?」

 このエッグバトルのおかげでかなり売名出来た。例えば二人が引き離されるなら、黒野は迷わず他事務所に自分達を売り込みにいくだろう。それくらい二人は、一緒にいることに固執していた。

「ずっと一緒?」
「黒猫がいきなり白猫になったりしねぇだろ」

 黒野の返答に猫居はクスクス笑うと、心の底から安心し、急速に心が穏やかになっていくのを感じた。

「よし。じゃ頑張ろう」

 かざした手にパチンっと手を合わせる猫居に黒野は優しく微笑んだ。

「俺のパートナーはお前だけだ。信じてる、レオ」
「俺もだよ……、トラ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元ヤクザの俺が推しの家政夫になってしまった件

深淵歩く猫
BL
元ヤクザの黛 慎矢(まゆずみ しんや)はハウスキーパーとして働く36歳。 ある日黛が務める家政婦事務所に、とある芸能事務所から依頼が来たのだが―― その内容がとても信じられないもので… bloveさんにも投稿しております。 完結しました。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...