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決勝戦開幕!
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バックダンサーを引き連れてのパフォーマンスは圧巻の迫力だった。5グループの中では金曜日のCheck it!が見た目も一番やんちゃだ。お揃いの金髪がライトに照らされると、大人数の中でも三人だけはよく目立った。
パーカーを脱ぎ捨て客席にそれを投げる二ノ宮。いつも飄々としているくせに、そこにいる彼はまるで別人だ。バックステージからメインステージへと伸びる花道を走る三人はキラキラした笑顔を振りまいて、全力で最後のステージを楽しんでいた。
メインステージに戻り、三人が目を合わせて笑いあう。
その姿を見つめ、佐久間は隣に立つ内海の足をトンっと軽く蹴った。そんな佐久間を見上げる内海の瞳は、どこか気まずそうだ。
佐久間は大袈裟に息を吐き出すと、背の低い内海を見下ろしてポンポンっとその頭を撫でた。
「負けたから緊張する意味がない、とは思わないぞ俺」
撫でられた頭に手を当て、内海は唇を噛み締めてCheck it!を見た。
「緊張しろとは言わないけど、緊張感は持てよ。このステージ……惰性でやることじゃないだろ」
惰性でやることじゃない。
ここにいる客のどれくらいがSURFを応援してくれていたのだろうか。負けてしまったけど、4983票は確実にSURFを一番に選んでくれていたのだ。
客のお目当てはMellowとBLACK CATとMonday Monsterがほとんどだろう。だけど、この何万人と集まっているファンの中に、絶対にSURFを見たくてやって来ている人がいる。
「勝負には負けたけどさ、じゃあ手を抜こうなんて考えなら、俺はお前、アイドルの素質ねぇと思う。今すぐ辞めるべきだ」
ぴしゃりと言われた言葉は、内海の心にしっかりと刻み込まれ、少しだけ……悔しかったし、悲しかった。
「でも……俺は、そもそも……」
「うっせぇよ。どんな事情にしろ、一回全力でアイドルしてみろよ。無理してでもさ、試しに、思いっきり笑ってみろよ。見えてる世界、変わるかもしんねぇぞ?」
靄のかかっているようなアイドルの世界。内海にはそう見えていた。先も見えなくて、歩きにくくて、面倒臭い感じ。けど、それでも見えないなりにぼんやりと光る何かをずっと見ていた。
もしも、この大きな会場で、大勢のファンの前で、『応援してくれてありがとう』と伝えることができたら、内海はアイドルとしてもっと高みを目指せるのかもしれない。
「そろそろスタンバイお願いします」
舞台袖にいる二人にスタッフが声を掛ける。
「行こう。手に入れられなかった景色が待ってる」
ニッと笑う佐久間に、内海は悔しそうに眉を寄せると、その後ろを追いかけた。
パーカーを脱ぎ捨て客席にそれを投げる二ノ宮。いつも飄々としているくせに、そこにいる彼はまるで別人だ。バックステージからメインステージへと伸びる花道を走る三人はキラキラした笑顔を振りまいて、全力で最後のステージを楽しんでいた。
メインステージに戻り、三人が目を合わせて笑いあう。
その姿を見つめ、佐久間は隣に立つ内海の足をトンっと軽く蹴った。そんな佐久間を見上げる内海の瞳は、どこか気まずそうだ。
佐久間は大袈裟に息を吐き出すと、背の低い内海を見下ろしてポンポンっとその頭を撫でた。
「負けたから緊張する意味がない、とは思わないぞ俺」
撫でられた頭に手を当て、内海は唇を噛み締めてCheck it!を見た。
「緊張しろとは言わないけど、緊張感は持てよ。このステージ……惰性でやることじゃないだろ」
惰性でやることじゃない。
ここにいる客のどれくらいがSURFを応援してくれていたのだろうか。負けてしまったけど、4983票は確実にSURFを一番に選んでくれていたのだ。
客のお目当てはMellowとBLACK CATとMonday Monsterがほとんどだろう。だけど、この何万人と集まっているファンの中に、絶対にSURFを見たくてやって来ている人がいる。
「勝負には負けたけどさ、じゃあ手を抜こうなんて考えなら、俺はお前、アイドルの素質ねぇと思う。今すぐ辞めるべきだ」
ぴしゃりと言われた言葉は、内海の心にしっかりと刻み込まれ、少しだけ……悔しかったし、悲しかった。
「でも……俺は、そもそも……」
「うっせぇよ。どんな事情にしろ、一回全力でアイドルしてみろよ。無理してでもさ、試しに、思いっきり笑ってみろよ。見えてる世界、変わるかもしんねぇぞ?」
靄のかかっているようなアイドルの世界。内海にはそう見えていた。先も見えなくて、歩きにくくて、面倒臭い感じ。けど、それでも見えないなりにぼんやりと光る何かをずっと見ていた。
もしも、この大きな会場で、大勢のファンの前で、『応援してくれてありがとう』と伝えることができたら、内海はアイドルとしてもっと高みを目指せるのかもしれない。
「そろそろスタンバイお願いします」
舞台袖にいる二人にスタッフが声を掛ける。
「行こう。手に入れられなかった景色が待ってる」
ニッと笑う佐久間に、内海は悔しそうに眉を寄せると、その後ろを追いかけた。
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