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壊れた信頼
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「今から、うち来れる?」
太一は、一人じゃもう抱えきれないこの不安を、野瀬に聞いて欲しかった。優しく抱きしめて、甘やかして欲しかった。大丈夫だと、心配するなと安心させて欲しかった。
だが、まさか家に招かれると思ってもいなかった野瀬は、現金に喜んだ。咄嗟にラーメンを断って良かったと心の底から自分を褒める。
初めて招かれる沖家。
太一の生家。野瀬からしてみれば聖地のひとつで間違いない。一ファンが足を踏み入れていい場所ではないと思いながらも、招かれたのなら行くしかあるまい、と心の中でほくそ笑む。
野瀬は首がもげるほど頷くと、一緒に電車に乗り込み、そして真っ白の四角い家を見上げ、Okiと記されている表札に、身震いした。
「何してるの? 入って」
表札にさえ感動してしまっている野瀬だが、まさか表札ごときに感動しているなど、太一には分かるわけがないだろう。
野瀬は心の中で合掌しながら家に上がらせてもらったが、家は何処もかしこも驚くほど殺風景だった。思わず唖然としてしまった野瀬に、太一は苦笑しながら言った。
「来月の5日には明け渡すんだ、この家。勝っても負けても、もうここには居られないから」
寒いと思えるほど殺風景なリビング。
「太一? 帰ったの?」
突然キッチンから顔を覗かせたのは太一の母親だった。
しかし、そこには野瀬の姿も。母は驚き、目を丸くした。
「あら……、いらっしゃい。お友達?」
「うん」
太一が家に友人を連れてくることは今までほとんどなかった。中学に上がってからは一度もなかったかもしれない。だから母親は驚いて太一と野瀬を見つめ、そして何処か嬉しそうに微笑んだ。
「お夕ご飯、まだでしょう? 作って持って行くから、お部屋で待っててちょうだい」
アイドル好きの母を持つ野瀬から見る太一の母は、あまりにおっとりしていて、とても上品な女性に映った。
「ありがとう。お風呂はいらない。向こうでシャワー浴びてきたから」
「そう。明日は学校?」
「うん」
太一は簡単に返事を済ませると、さっさと二階へ向かい、野瀬は母親に一礼してからその後を追いかけた。
「沖のお母さん、綺麗だね」
「そうかな? 野瀬んちのお母さんの方が綺麗だと思うんだけど」
お世辞でもなんでもない。事実間違いなく野瀬母の方が美人だろう。だけど、野瀬はそういうことが言いたいのではなく、内面から滲み出ている女性の美しさの話をしたかったのだ。
だが、おばさん相手に女性として綺麗だと言っているんだ、などと力説するのもなんだか少し違う気がして、もう何も言わず太一の後ろを着いて歩くことにした。
太一は、一人じゃもう抱えきれないこの不安を、野瀬に聞いて欲しかった。優しく抱きしめて、甘やかして欲しかった。大丈夫だと、心配するなと安心させて欲しかった。
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「お夕ご飯、まだでしょう? 作って持って行くから、お部屋で待っててちょうだい」
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「ありがとう。お風呂はいらない。向こうでシャワー浴びてきたから」
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