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卒業式
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見事に二人ともボタンを奪われている。
それを見て、志藤は机に置いたままの太一のマフラーを首に巻いた。第二ボタンがないことを二人に見られたくなかったからだ。太一はそんな志藤を見て少し頬を染めると、「寒い?」と静かに尋ねた。そんな鈍い質問に志藤は眉を寄せると、太一にだけ見えるように穴の空いた第二ボタンの位置を見せた。
「……馬鹿」
隠してんだよ、という言葉は言わなかった。言うより先に太一の顔がみるみる赤くなってしまったからだ。その反応に志藤は絶対俺の事好きじゃんと思い、中原と野瀬と別れたら、告白し直そうかと考えた。
けど、今は大事な時期。とはいえ、このタイミングを逃したらこの後どうなるかも分からない。太一は二ヶ月後、日本に居ないかもしれないのだ。
告白するならやはり今なのか。
ポケットに入っている太一の第二ボタンを手で転がしながら考える。エッグバトルに勝った時のご褒美にしとこうか、なんて思ってはみたが、負けてしまったら元も子もない。イチかバチか、そんなゲーム感覚で太一のことを好きになったわけじゃないから。
けど、告白自体がイチかバチかだ。
自分に惚れているのではないかと思える太一の態度も、もしかして気の所為かもしれないわけだ。なにせこの男、天然無自覚の厄介男。志藤はそれを十分に熟知している。
そういう意味じゃないから、と何度も念を押された。さっきはそれを信じたけど、やっぱり嘯いたのではないかと思う。顔を逸らした太一の横顔を見つめ、告白したい、という思いに駆られる。
手に入るのなら、今すぐそうしたい。
抱きしめ、きつくきつく痛いほどに抱きしめ、離したくなかった。誰にも譲りたくないし、誰にも渡したくない。
男相手にそんなことを思うようになってしまったこと、志藤はもう動揺しなかった。
告白する。野瀬に先を越される前に、と。
そうやって一人で悶々と考え込んでいる志藤の隣で、太一は今置かれている自分の状況を中原と野瀬に話し始めていた。
「アメリ……カ?」
野瀬の悲痛な声がポツリと教室に響くと、太一も黙り込み、居た堪れない静寂が横たわった。
手に持っていた鞄が、力をなくした野瀬の手からするりと抜け落ち、どさりと落ちたその音は静まり返っている教室に大きく響いた。
その音に太一も志藤もはっと顔をあげ、中原の隣に立ち尽くしている野瀬を見上げる。
彼はとても素直で、とても正直な顔をしていた。
「泣くなよ、雅紀」
中原は舌打ちしたが、その涙に貰い泣きしそうな自分への舌打ちだったことは、太一や志藤にも理解できた。
「だ……って……! ヤダよ……、そんなのヤダよ!」
「まだ負けてねぇだろ! 信じろよ! こいつらだって負けに行くわけじゃねぇんだから!」
数週間前に、太一がテレビで言った。勝ちに来たんだと。その言葉を思い出させるように、中原は野瀬に怒鳴り声を上げた。けど、本当は中原だって二人に縋り、勝ってくれと懇願したい衝動を持ち合わせていた。
それを見て、志藤は机に置いたままの太一のマフラーを首に巻いた。第二ボタンがないことを二人に見られたくなかったからだ。太一はそんな志藤を見て少し頬を染めると、「寒い?」と静かに尋ねた。そんな鈍い質問に志藤は眉を寄せると、太一にだけ見えるように穴の空いた第二ボタンの位置を見せた。
「……馬鹿」
隠してんだよ、という言葉は言わなかった。言うより先に太一の顔がみるみる赤くなってしまったからだ。その反応に志藤は絶対俺の事好きじゃんと思い、中原と野瀬と別れたら、告白し直そうかと考えた。
けど、今は大事な時期。とはいえ、このタイミングを逃したらこの後どうなるかも分からない。太一は二ヶ月後、日本に居ないかもしれないのだ。
告白するならやはり今なのか。
ポケットに入っている太一の第二ボタンを手で転がしながら考える。エッグバトルに勝った時のご褒美にしとこうか、なんて思ってはみたが、負けてしまったら元も子もない。イチかバチか、そんなゲーム感覚で太一のことを好きになったわけじゃないから。
けど、告白自体がイチかバチかだ。
自分に惚れているのではないかと思える太一の態度も、もしかして気の所為かもしれないわけだ。なにせこの男、天然無自覚の厄介男。志藤はそれを十分に熟知している。
そういう意味じゃないから、と何度も念を押された。さっきはそれを信じたけど、やっぱり嘯いたのではないかと思う。顔を逸らした太一の横顔を見つめ、告白したい、という思いに駆られる。
手に入るのなら、今すぐそうしたい。
抱きしめ、きつくきつく痛いほどに抱きしめ、離したくなかった。誰にも譲りたくないし、誰にも渡したくない。
男相手にそんなことを思うようになってしまったこと、志藤はもう動揺しなかった。
告白する。野瀬に先を越される前に、と。
そうやって一人で悶々と考え込んでいる志藤の隣で、太一は今置かれている自分の状況を中原と野瀬に話し始めていた。
「アメリ……カ?」
野瀬の悲痛な声がポツリと教室に響くと、太一も黙り込み、居た堪れない静寂が横たわった。
手に持っていた鞄が、力をなくした野瀬の手からするりと抜け落ち、どさりと落ちたその音は静まり返っている教室に大きく響いた。
その音に太一も志藤もはっと顔をあげ、中原の隣に立ち尽くしている野瀬を見上げる。
彼はとても素直で、とても正直な顔をしていた。
「泣くなよ、雅紀」
中原は舌打ちしたが、その涙に貰い泣きしそうな自分への舌打ちだったことは、太一や志藤にも理解できた。
「だ……って……! ヤダよ……、そんなのヤダよ!」
「まだ負けてねぇだろ! 信じろよ! こいつらだって負けに行くわけじゃねぇんだから!」
数週間前に、太一がテレビで言った。勝ちに来たんだと。その言葉を思い出させるように、中原は野瀬に怒鳴り声を上げた。けど、本当は中原だって二人に縋り、勝ってくれと懇願したい衝動を持ち合わせていた。
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