上 下
202 / 312
卒業式

しおりを挟む
 見事に二人ともボタンを奪われている。
 それを見て、志藤は机に置いたままの太一のマフラーを首に巻いた。第二ボタンがないことを二人に見られたくなかったからだ。太一はそんな志藤を見て少し頬を染めると、「寒い?」と静かに尋ねた。そんな鈍い質問に志藤は眉を寄せると、太一にだけ見えるように穴の空いた第二ボタンの位置を見せた。

「……馬鹿」

 隠してんだよ、という言葉は言わなかった。言うより先に太一の顔がみるみる赤くなってしまったからだ。その反応に志藤は絶対俺の事好きじゃんと思い、中原と野瀬と別れたら、告白し直そうかと考えた。

 けど、今は大事な時期。とはいえ、このタイミングを逃したらこの後どうなるかも分からない。太一は二ヶ月後、日本に居ないかもしれないのだ。

 告白するならやはり今なのか。 

 ポケットに入っている太一の第二ボタンを手で転がしながら考える。エッグバトルに勝った時のご褒美にしとこうか、なんて思ってはみたが、負けてしまったら元も子もない。イチかバチか、そんなゲーム感覚で太一のことを好きになったわけじゃないから。

 けど、告白自体がイチかバチかだ。
 自分に惚れているのではないかと思える太一の態度も、もしかして気の所為かもしれないわけだ。なにせこの男、天然無自覚の厄介男。志藤はそれを十分に熟知している。

 そういう意味じゃないから、と何度も念を押された。さっきはそれを信じたけど、やっぱりうそぶいたのではないかと思う。顔を逸らした太一の横顔を見つめ、告白したい、という思いに駆られる。

 手に入るのなら、今すぐそうしたい。
 抱きしめ、きつくきつく痛いほどに抱きしめ、離したくなかった。誰にも譲りたくないし、誰にも渡したくない。

 男相手にそんなことを思うようになってしまったこと、志藤はもう動揺しなかった。

 告白する。野瀬に先を越される前に、と。

 そうやって一人で悶々と考え込んでいる志藤の隣で、太一は今置かれている自分の状況を中原と野瀬に話し始めていた。

「アメリ……カ?」

 野瀬の悲痛な声がポツリと教室に響くと、太一も黙り込み、居た堪れない静寂が横たわった。

 手に持っていた鞄が、力をなくした野瀬の手からするりと抜け落ち、どさりと落ちたその音は静まり返っている教室に大きく響いた。

 その音に太一も志藤もはっと顔をあげ、中原の隣に立ち尽くしている野瀬を見上げる。
 彼はとても素直で、とても正直な顔をしていた。

「泣くなよ、雅紀」

 中原は舌打ちしたが、その涙に貰い泣きしそうな自分への舌打ちだったことは、太一や志藤にも理解できた。

「だ……って……! ヤダよ……、そんなのヤダよ!」
「まだ負けてねぇだろ! 信じろよ! こいつらだって負けに行くわけじゃねぇんだから!」

 数週間前に、太一がテレビで言った。勝ちに来たんだと。その言葉を思い出させるように、中原は野瀬に怒鳴り声を上げた。けど、本当は中原だって二人に縋り、勝ってくれと懇願したい衝動を持ち合わせていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

あいつと俺

むちむちボディ
BL
若デブ同士の物語です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...