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卒業式

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 二人でベランダに出た。賑やかな校庭には相変わらず女生徒に囲まれている野瀬と中原が見えて、志藤は可笑しそうに笑った。

「目立つなぁ~。すぐ分かるよ」
「だね」

 こうして二人を見ていると、いつも太一は不思議な気分になる。だってあの大人しい野瀬が、自分以外の人間の前では中原と同じくらいよく笑い、喋り、堂々としているのだ。もちろん、この距離だとどんな話をしているのかは聞こえないし、案外言葉数は少なかったりするのかもしれないが。

 女子に囲まれる二人を見ながら、志藤に相談するように太一は呟いた。

「二人に……親の転勤の話、まだしてないんだ」

 志藤は校庭をじっと見下ろしたまま、太一の言葉に僅か、眉根を寄せた。その事実を野瀬が知れば、太一に告白するかもしれないと思ったからだ。おまけに、卒業というタイミング。十分にありうるだろう。

 ただ二人は高校が違う。それだけが志藤の救いだったけど、先ほど訪れた絶好のチャンスをみすみす取り逃がした自分を、野瀬が簡単に追い越してしまいそうで、それが一番の恐怖だった。

「……言うの?」

 出来れば言わないで欲しかった。でもそれは志藤が決めていいことではない。太一はしばらく黙り込み、二人を見つめながらしっかりと頷いた。

「二人には、すごく協力してもらったから」

 太一にとっての初めてのファンは野瀬だった。中原に教えてもらわなければきっと今もその事実を知らず、感じの悪い印象を持ったままだっただろう。けど、教えてもらったからこそ、野瀬の態度があからさまに「ファンなんです」と主張しているようにしか見えなくなり、それが可笑しくて、可愛くて、ものすごく嬉しかった。

 志藤に対してはそんな態度を微塵も見せないからこそ、余計に嬉しかったのだ。

 けど、たった一度。夏祭りで雪村に出会った時、野瀬が自分にしか見せなかったぎこちない態度を取った。相手がユキなら仕方ないか、と思った太一だけど……、本当は少しばかり悔しかった。

 太一に悔しいなんて思わせてしまうほど、野瀬はずっと太一に分かりやすいアピールを繰り返していたのだ。それはあの夏から現在に至るまで少しも変わらない。太一を安心させてやれるくらい、野瀬はずっと太一のファンだった。

 最初の頃に比べれば、よく喋るようになったし、よく笑うようになった。でも、指先ひとつ触れただけで赤面するし、忘れたという消しゴムを切って渡してやると、一生の宝物にするとでも言い出しそうなくらい感激したりと、笑ってしまうくらい野瀬は太一一筋で、それがどれだけ太一の励みになっていたか、当人は少しも気付いていない。
 もちろん、それはファンというだけではない疚しい思いもあるからなのだが、太一がそれに気付いていないのだから、結果オーライだ。
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