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予選突破に巡る想い
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長めのCM中、一般投票の集計が行われる。ステージ上手のひな壇に座っていたエッグたちは全員中央へと移動させられた。
CM中のスタジオでは客席投票も順に行われる。どのエッグも祈るような面持ちで開票の時を待っている。
音源化の切符は目の前にある。勝つために、全員が本気で作り上げた渾身の曲。負ければその曲は音源化されない。それはあまりに悔しいことだ。この勝負には負けられない理由がある。
それに今自分達は、同じ曜日の仲間たちを蹴落とし、この場に立っている。彼らのためにも勝たなければいけない。
票は着実に全国から寄せられ、ステージの裏側ではスタッフ達が慌ただしく集計作業に追われていた。
トクトクと全身に響く鼓動を感じながら、太一は目の前に広がる景色を心に刻み込んだ。負ければアメリカ。勝てば首の皮一枚繋がる。勝って、勝って勝ち進み、必ず Monday Monster としてデビューしてみせる。
ぎゅっと握りしめる拳。その手にコツン……と当たった、もうひとつの拳。
ふとそちらを見ると、まっすぐ前だけを見ている志藤がいた。触ったのではなく、当たっただけ。志藤の真剣な眼差し。太一は目が逸らせなくなって、気付けば彼の手を握っていた。
ドキッとし、志藤は慌てた様子で太一を見上げたが、彼の目が「すごく不安だ」と訴えていることに気付き、そっとその手を握り返した。
視聴者投票は審査員評価と違って、謂わば人気投票のようなもの。現在暫定一位にいたとしても、人気が伴わなければまったく意味は無い。
志藤は小さく、だけどしっかりと息を吸いこんで太一に微笑みかけた。
「安心してよ。アメリカに行かせるわけないだろ? 俺を誰だと思ってんの」
自分を鼓舞するような言葉。本当は志藤だって不安だ。けど、その不安は今見せちゃいけない。
「月曜の怪物、なめんなよ」
そう、志藤は事務所のトップ3だ。雪村・及川に次ぐ人気を保持している。それはエッグの評価に関係なく、事実として確かなものだった。
ざわついているスタジオ内。志藤の声は決して大きいわけじゃなかったけど、太一にはまっすぐ耳に入ってきた。そして、やっぱりカッコイイと思った。
弟のように可愛かった志藤は、いつからか出会った頃の頼もしさを取り戻し、その小さな体に太一の求める強さを常に燃やし続けている。
(やっぱり歩くんは、小さなモンスターだ)
志藤がこんな風に喋ることは、きっとあまり知られていない。
なめんなよ、なんてアイドルの志藤歩からは絶対に出てこない言葉だ。彼はいつだってにこやかで明るくて、無邪気で元気。その心に宿している激しい野心や闘争心は、いつでもベールの奥に隠されている。そうすることでアイドルとしての志藤歩が完成するのだ。
だからみんなは知らない、こんな志藤のことを。ファンはもちろん、エッグだって見抜けてはいないだろう。
(オレだけしか知らない、歩くん)
思い出したのは、同じ月曜レッスン生を足蹴にした姿。太一は冷え切ったあの瞳が悲しいと思った反面、叫びたいくらい「よくやった!」と抱きしめたかった。
志藤の中に眠るモンスター。
その姿を見る度、胸のど真ん中に湧き上がっては押さえ込み、湧き上がっては押さえ込む想いがある。いつからだったかなんて覚えていない。けど確かに飲み込みにくい想いがあるのだ。
長めのCM中、一般投票の集計が行われる。ステージ上手のひな壇に座っていたエッグたちは全員中央へと移動させられた。
CM中のスタジオでは客席投票も順に行われる。どのエッグも祈るような面持ちで開票の時を待っている。
音源化の切符は目の前にある。勝つために、全員が本気で作り上げた渾身の曲。負ければその曲は音源化されない。それはあまりに悔しいことだ。この勝負には負けられない理由がある。
それに今自分達は、同じ曜日の仲間たちを蹴落とし、この場に立っている。彼らのためにも勝たなければいけない。
票は着実に全国から寄せられ、ステージの裏側ではスタッフ達が慌ただしく集計作業に追われていた。
トクトクと全身に響く鼓動を感じながら、太一は目の前に広がる景色を心に刻み込んだ。負ければアメリカ。勝てば首の皮一枚繋がる。勝って、勝って勝ち進み、必ず Monday Monster としてデビューしてみせる。
ぎゅっと握りしめる拳。その手にコツン……と当たった、もうひとつの拳。
ふとそちらを見ると、まっすぐ前だけを見ている志藤がいた。触ったのではなく、当たっただけ。志藤の真剣な眼差し。太一は目が逸らせなくなって、気付けば彼の手を握っていた。
ドキッとし、志藤は慌てた様子で太一を見上げたが、彼の目が「すごく不安だ」と訴えていることに気付き、そっとその手を握り返した。
視聴者投票は審査員評価と違って、謂わば人気投票のようなもの。現在暫定一位にいたとしても、人気が伴わなければまったく意味は無い。
志藤は小さく、だけどしっかりと息を吸いこんで太一に微笑みかけた。
「安心してよ。アメリカに行かせるわけないだろ? 俺を誰だと思ってんの」
自分を鼓舞するような言葉。本当は志藤だって不安だ。けど、その不安は今見せちゃいけない。
「月曜の怪物、なめんなよ」
そう、志藤は事務所のトップ3だ。雪村・及川に次ぐ人気を保持している。それはエッグの評価に関係なく、事実として確かなものだった。
ざわついているスタジオ内。志藤の声は決して大きいわけじゃなかったけど、太一にはまっすぐ耳に入ってきた。そして、やっぱりカッコイイと思った。
弟のように可愛かった志藤は、いつからか出会った頃の頼もしさを取り戻し、その小さな体に太一の求める強さを常に燃やし続けている。
(やっぱり歩くんは、小さなモンスターだ)
志藤がこんな風に喋ることは、きっとあまり知られていない。
なめんなよ、なんてアイドルの志藤歩からは絶対に出てこない言葉だ。彼はいつだってにこやかで明るくて、無邪気で元気。その心に宿している激しい野心や闘争心は、いつでもベールの奥に隠されている。そうすることでアイドルとしての志藤歩が完成するのだ。
だからみんなは知らない、こんな志藤のことを。ファンはもちろん、エッグだって見抜けてはいないだろう。
(オレだけしか知らない、歩くん)
思い出したのは、同じ月曜レッスン生を足蹴にした姿。太一は冷え切ったあの瞳が悲しいと思った反面、叫びたいくらい「よくやった!」と抱きしめたかった。
志藤の中に眠るモンスター。
その姿を見る度、胸のど真ん中に湧き上がっては押さえ込み、湧き上がっては押さえ込む想いがある。いつからだったかなんて覚えていない。けど確かに飲み込みにくい想いがあるのだ。
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