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予選突破に巡る想い
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ミサンガの話するの忘れてたな、と雪村が笑った。
確かに、と三人は笑い、自分たちのベストを尽くせたことと、そのパフォーマンスに最高得点という評価を貰えたことに四人はひとまず安心した。
「だけど、問題は視聴者投票だ。最下位との点差は30点もない。視聴者投票が始まれば一瞬でひっくり返る差だから、どう転ぶかまだわからない」
厳しい表情で雪村はメンバーの気持ちを引き締める。
事務所のトップランナーであるにも関わらず、彼は自分に傲ることもなく、常に全員をライバル視している。その事に、一ノ瀬は「天然なのか、嫌味なのか」と心の中で苦笑した。
そりゃもちろん、この戦いを制することが出来るかどうかなんて一ノ瀬にだって分かりはしないし、雪村の言うことだってよく分かる。だけど、彼が自分への評価を下げれば下げるほど、他のアイドル達は妙なプレッシャーを感じるだけだった。
さきほどの佐久間がそうだ。トップ2に言われたくねぇ、と嫌な顔をしたのが正にそれである。
結果がどうなるかは分からない。けど、雪村涼は過信しているくらいがちょうどいい……なんて、一ノ瀬は思うのであった。
でも、雪村涼がそういう男でないことも、皆よく知っている。他人にも厳しいが自分にはそれ以上に厳しい。自分が事務所の顔である自覚があるにも関わらず、及川と決定的に違うのは、”安定した自信” を持っていないことだった。
太一のように分かりやすく自信喪失することはないが、初心を忘れない危機感を常に抱いている雪村は、例えるなら本当に「虚勢」でトップに立ち続けているようなものである。
一ノ瀬はその姿を滑稽だと思う反面、すごい精神力だと感心している。そしてそれは、笑ってしまうほどの、一番の尊敬だと感じた。
(ホント……敵わないな。この人には……)
雪村の横顔を見上げ、思うことは一つ。
この人を全力でサポート出来るなら、本望なのかもしれないと。
そんな一ノ瀬の視線にふと気付いた雪村。ゆっくりとそちらを振り返り、撮影時以外、滅多に見せてくれない柔らかな微笑みを向けてくれる。それは……そう、今まで太一にしか見せていなかった信頼の証。
一ノ瀬は真っ赤になって俯くと、震える心に一つの誓いを立てる。
一生ついていく、と。
例えばこの戦いを制することが出来なかった時、雪村はきっと誰よりも自分を責めるだろう。その姿が目に浮かぶから、一ノ瀬は誓うのだ。
この手で雪村の丸まった背中を慰め、この手で雪村の背中を押すのだと。
もっとも、そうならないことがベスト。しかしこの四人でデビューしたとしても、彼には多くの支えが必要だ。強い人だからこそ、一度崩れたら転げ落ちていくような気がした。一ノ瀬はすでにこの時点で、雪村の脆さを嗅ぎ分けていた。
きっとこの事務所でその脆さを見抜いているのは、佐久間と太一と一ノ瀬のたった三人だけだろう。
残念だが志藤はそれに気付かない。彼の心は太一にしか興味がないからだ。彼が周りをよく見るようになるのは、ずっとずっと先の話。
雪村の弱さに手を差し伸べるのだって、それは本当に本当に先の話になるのだ。その手を取り、力いっぱい引っ張り立たせるまでに成長するには、彼にはまだまだ時間が必要なようだ。
確かに、と三人は笑い、自分たちのベストを尽くせたことと、そのパフォーマンスに最高得点という評価を貰えたことに四人はひとまず安心した。
「だけど、問題は視聴者投票だ。最下位との点差は30点もない。視聴者投票が始まれば一瞬でひっくり返る差だから、どう転ぶかまだわからない」
厳しい表情で雪村はメンバーの気持ちを引き締める。
事務所のトップランナーであるにも関わらず、彼は自分に傲ることもなく、常に全員をライバル視している。その事に、一ノ瀬は「天然なのか、嫌味なのか」と心の中で苦笑した。
そりゃもちろん、この戦いを制することが出来るかどうかなんて一ノ瀬にだって分かりはしないし、雪村の言うことだってよく分かる。だけど、彼が自分への評価を下げれば下げるほど、他のアイドル達は妙なプレッシャーを感じるだけだった。
さきほどの佐久間がそうだ。トップ2に言われたくねぇ、と嫌な顔をしたのが正にそれである。
結果がどうなるかは分からない。けど、雪村涼は過信しているくらいがちょうどいい……なんて、一ノ瀬は思うのであった。
でも、雪村涼がそういう男でないことも、皆よく知っている。他人にも厳しいが自分にはそれ以上に厳しい。自分が事務所の顔である自覚があるにも関わらず、及川と決定的に違うのは、”安定した自信” を持っていないことだった。
太一のように分かりやすく自信喪失することはないが、初心を忘れない危機感を常に抱いている雪村は、例えるなら本当に「虚勢」でトップに立ち続けているようなものである。
一ノ瀬はその姿を滑稽だと思う反面、すごい精神力だと感心している。そしてそれは、笑ってしまうほどの、一番の尊敬だと感じた。
(ホント……敵わないな。この人には……)
雪村の横顔を見上げ、思うことは一つ。
この人を全力でサポート出来るなら、本望なのかもしれないと。
そんな一ノ瀬の視線にふと気付いた雪村。ゆっくりとそちらを振り返り、撮影時以外、滅多に見せてくれない柔らかな微笑みを向けてくれる。それは……そう、今まで太一にしか見せていなかった信頼の証。
一ノ瀬は真っ赤になって俯くと、震える心に一つの誓いを立てる。
一生ついていく、と。
例えばこの戦いを制することが出来なかった時、雪村はきっと誰よりも自分を責めるだろう。その姿が目に浮かぶから、一ノ瀬は誓うのだ。
この手で雪村の丸まった背中を慰め、この手で雪村の背中を押すのだと。
もっとも、そうならないことがベスト。しかしこの四人でデビューしたとしても、彼には多くの支えが必要だ。強い人だからこそ、一度崩れたら転げ落ちていくような気がした。一ノ瀬はすでにこの時点で、雪村の脆さを嗅ぎ分けていた。
きっとこの事務所でその脆さを見抜いているのは、佐久間と太一と一ノ瀬のたった三人だけだろう。
残念だが志藤はそれに気付かない。彼の心は太一にしか興味がないからだ。彼が周りをよく見るようになるのは、ずっとずっと先の話。
雪村の弱さに手を差し伸べるのだって、それは本当に本当に先の話になるのだ。その手を取り、力いっぱい引っ張り立たせるまでに成長するには、彼にはまだまだ時間が必要なようだ。
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