MOMO!! ~生き残れ、売れないアイドル!~

2wei

文字の大きさ
上 下
157 / 312
少年達の冬

しおりを挟む
 太一が黒野の標的にされているのは誰もがすぐに気付いたが、ほとんどのエッグは太一を助けることも出来ず、黙ってその様子を見ているしかなかった。
 だがもちろん、雪村がそれを見逃すわけはない。嫌がらせを繰り返す黒野にすっと近づきプレッシャーをかける。そうすると黒野は決まって太一からすぐに離れて行った。

 黒野が雪村に怖気付いているわけではない。黒野とて、無駄な喧嘩をするつもりがないだけだ。第一雪村を敵に回すと厄介だとさすがの黒野も分かっている。
 ただ、天才と謳われる太一の才能に、黒野は少なからず嫉妬していたのだ。ぽっと出てきただけの太一に今後のアイドル活動を脅かされるなんて御免被りたいのだろう。しかもその手助けになってしまったのが、己の欠番によるものなんだから、尚の事ピリピリしてしまうのは致し方ない事だった。

 太一の疲労は着実に蓄積されていた。
 受験勉強と仕事だけでもあっぷあっぷしているというのに、そこに黒野からの嫌がらせが加われば、太一でなくともげっそりしてしまうだろう。大抵は雪村が助けてくれるが、もちろん毎回都合良く雪村がそばにいるわけじゃない。なぜ自分が標的にされたかも分からないまま、ただ言われたことを真摯に受け止め、すみませんと謝ることが精一杯だった。

 二月に行われる曜日対決に向けての準備は着実に進んでいく。曲も決まり、歌詞も仕上がり、レコーディングが行われる。そしてこれからダンスの振りを覚え、衣装も決めなければいけない。やらなければいけないことは山積みで、冬休みに入ってもなかなか休めそうになかった。

 この休みが明ければ推薦入試だって待ち受けている。怒涛のスケジュール。頭がおかしくなると思いながらも、太一は今までできっと一番充実した日々を過ごしていた。

 番組も徐々にリアルタイムに近づき始め、二月の対決に向けてその足並みを揃えようと駆け足をはじめる。

 学校は冬休みに入り、世間はすっかりクリスマス色に染まったその当日。志藤は仕事を終え、駆け足で待ち人のいる家へと向かった。マフラーで口元を隠し、コートに両手を突っ込んで家路を急ぐ。
 すっかり遅くなった。もう少し早く仕事を終われると思っていたのに、時刻はすでに二十時半を過ぎている。

「ごめん。遅くなった。今からでも、会える?」

 電話を掛けてしばらく、前方に彼女の姿を捉える。いつも綺麗にしている髪。ふわふわのニットワンピ。

「志藤くん!」

 手を振り名前を読んだのは美月だ。

「ごめん! ほんとにごめん。怒ってる?」

 彼女の顔色を伺い、志藤はしゅんと眉を垂れた。

「怒ってないよ。お仕事お疲れ様。うち、あがってく?」

 無邪気にそう誘ってきた美月に志藤はギョッとした。実はこの二人、付き合い始めていた。だがもちろん、志藤に愛はない。全ては太一にいらぬ虫を寄せ付けないためだ。好きでもない美月とデートをし、電話をし、クリスマスにプレゼントを用意した。仕事をしているのだからあまりケチったものは買えないと、サマンサタバサの財布を買った。きっと喜ぶ。
 そう分かって買ったけど、お金を出してプレゼント買ってあげたい相手は、本当は美月じゃない。

 太一に何かを買ってあげたかった。
 けど、きっと高額なものを買っても気を遣わせるだけだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...