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泥沼作戦会議
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雪村と志藤が仕事で集まれないため、今日の会議は夜からになっていた。だからそれまで野瀬の家でアイドルの資料を見ながらアレコレと一緒に話せればいいと思い立ったのだ。
だが、その提案をして太一は「あ、やっぱりこいつ“野瀬”だ」と呆れる。ぼん!といきなり赤面し、急に呂律が怪しくなったからだ。
「ぁ、い……あ、う、あ…え。う、うん…! うん、い……い、いぃよ」
笑ってしまうほどの動揺ぶり。でもこれが太一の知っている野瀬雅紀だ。
「じゃ決定だな。放課後に昨日のこと詳しく話すよ」
野瀬はこくこくと何度も頷き、携帯を握りしめて小さなガッツポーズを取った。
だが、その様子を少し離れた場所で面白くなさそうに見つめていたのは中原だった。ととっと二人に近づき、ガバリと野瀬の背中に飛びつく。
「な~に、携帯と睨めっこしてんの?」
およそ一週間前の昼休み。トイレへ行った後、廊下で出会った別のクラスの友人と少し話し込んでいたら、野瀬の手を引いた太一と出会った。何処に行くんだと聞いたら、「ちょっとね」と言葉を濁され、「すぐに戻るよ」と言われたため、大人しく教室で待っていたのに、二人は一向に帰ってこなかった。結局、帰ったきたのは始業ギリギリ。
この一週間。あの日のように二人でこそこそ何処かに行くということこそなかったものの、自分の目を盗んで内緒話をしている場面は何度か見かけた。中原にしてみれば当然気分のいいものでは無い。
野瀬が太一と仲良くなるのはいいが、自分だけのけ者にされる理由は何処にもない。
突然背中に飛びついてきた中原に、野瀬は一瞬体勢を崩したが、なんとか踏ん張り慌てて携帯を閉じた。
「何話してたの?」
単刀直入に尋ねる中原。回りくどいのは嫌いだ。
野瀬が困ったように視線を泳がせて太一に助けを求めると、中原も太一へと視線を移した。
目の合った中原に太一はにっこり笑いかけると、彼も今日の会議に誘うことにした。人数は多い方がいい。
「じゃ、中原も放課後野瀬んち行く?」
野瀬が俄然がっかりしたのは言うまでもない。
「ただまぁ、エッグバトルのネタバレになるけど、いいかな?」
中原はこくこく頷き、「むしろウェルカム!」とガッツポーズを取ったのだった。
ただ中原が昼休み中にあれこれ聞き出そうとするものだから、さすがの太一も首を振った。
「放課後までおあずけ」
唇に人差し指を当て、片目を瞑ったその表情は、野瀬のハートのど真ん中を射抜き、中原までも完全に黙らせるほどの威力だった。
中原は昼休み終了後、野瀬へこっそりメールする。
『お前が沖にキャーキャー言ってる理由を、少し垣間見たぜ』
文面を確認し、野瀬はちらりと中原を振り返った。太一の後ろの席から野瀬を見つめ、ニヤリと口角をあげる中原。それを見て、野瀬はこう返事する。
『沖のこと、好きになんなよ』
その返事に吹き出す中原を、野瀬は少し離れた席から見守った。けど、その思いは……少しばかり、切実である。
だが、その提案をして太一は「あ、やっぱりこいつ“野瀬”だ」と呆れる。ぼん!といきなり赤面し、急に呂律が怪しくなったからだ。
「ぁ、い……あ、う、あ…え。う、うん…! うん、い……い、いぃよ」
笑ってしまうほどの動揺ぶり。でもこれが太一の知っている野瀬雅紀だ。
「じゃ決定だな。放課後に昨日のこと詳しく話すよ」
野瀬はこくこくと何度も頷き、携帯を握りしめて小さなガッツポーズを取った。
だが、その様子を少し離れた場所で面白くなさそうに見つめていたのは中原だった。ととっと二人に近づき、ガバリと野瀬の背中に飛びつく。
「な~に、携帯と睨めっこしてんの?」
およそ一週間前の昼休み。トイレへ行った後、廊下で出会った別のクラスの友人と少し話し込んでいたら、野瀬の手を引いた太一と出会った。何処に行くんだと聞いたら、「ちょっとね」と言葉を濁され、「すぐに戻るよ」と言われたため、大人しく教室で待っていたのに、二人は一向に帰ってこなかった。結局、帰ったきたのは始業ギリギリ。
この一週間。あの日のように二人でこそこそ何処かに行くということこそなかったものの、自分の目を盗んで内緒話をしている場面は何度か見かけた。中原にしてみれば当然気分のいいものでは無い。
野瀬が太一と仲良くなるのはいいが、自分だけのけ者にされる理由は何処にもない。
突然背中に飛びついてきた中原に、野瀬は一瞬体勢を崩したが、なんとか踏ん張り慌てて携帯を閉じた。
「何話してたの?」
単刀直入に尋ねる中原。回りくどいのは嫌いだ。
野瀬が困ったように視線を泳がせて太一に助けを求めると、中原も太一へと視線を移した。
目の合った中原に太一はにっこり笑いかけると、彼も今日の会議に誘うことにした。人数は多い方がいい。
「じゃ、中原も放課後野瀬んち行く?」
野瀬が俄然がっかりしたのは言うまでもない。
「ただまぁ、エッグバトルのネタバレになるけど、いいかな?」
中原はこくこく頷き、「むしろウェルカム!」とガッツポーズを取ったのだった。
ただ中原が昼休み中にあれこれ聞き出そうとするものだから、さすがの太一も首を振った。
「放課後までおあずけ」
唇に人差し指を当て、片目を瞑ったその表情は、野瀬のハートのど真ん中を射抜き、中原までも完全に黙らせるほどの威力だった。
中原は昼休み終了後、野瀬へこっそりメールする。
『お前が沖にキャーキャー言ってる理由を、少し垣間見たぜ』
文面を確認し、野瀬はちらりと中原を振り返った。太一の後ろの席から野瀬を見つめ、ニヤリと口角をあげる中原。それを見て、野瀬はこう返事する。
『沖のこと、好きになんなよ』
その返事に吹き出す中原を、野瀬は少し離れた席から見守った。けど、その思いは……少しばかり、切実である。
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