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泥沼作戦会議
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月曜。
結局昨日は一ノ瀬と太一が話し合った内容を二人に伝えたあと、すぐに解散となった。雪村が他の仕事で抜けることになり、その一時間後には志藤も別の仕事を控えていたためだ。なんだかんだでやはり雪村と志藤は売れっ子アイドル。事務所のトップ3ともなると、エッグバトルにばかり時間を割けない。それは致しかたないことだった。
「ねぇ沖。この土日、会議あるって言ってたよね?」
昼休み、中原がトイレに立ったのを狙って、野瀬は太一にそう尋ねた。
「どうだった? なにか、方向性決まった?」
方向性が決まったかと問われたら、たぶんまったく決まっていない。太一は肩をすくめて首を振った。
「まだ、何も決まってない」
その返事に野瀬も眉を垂れる。
「そっか」
「野瀬は、何か分かった?」
問われて野瀬は首を振る。ごめんと謝らなければいけないことが情けなかった。
太一の隣の席に腰を下ろし、野瀬は携帯電話を取り出した。
「あのさ、沖。俺本気で沖の力になりたいと思ってる。だから他の曜日のグループメンバー、教えてくれないかな?」
「え?」
それは思ってもみない申し出だった。
「……なんで?」
「敵情視察ってやつ? それに申し訳ないけど他のグループの情報なしには、月曜日の特徴も分からないのが事実だよ。良かったら教えてほしい」
あの野瀬がここまでしっかりとした口調で言ってきたのだ。太一はびっくりしたが、そこまで真剣に考えてくれているなら教えないわけにいかない。巻き込んだのは自分なのだから。
ただ猛烈に言いたかった。「普通に喋れるんじゃん!」と。けどそんなツッコミをかませば、野瀬が金輪際話してくれないような気がして、太一はぐっとその言葉を飲み込んだ。
「分かった。今メール送るよ」
太一はグループ名とメンバーを打ち込み、すぐに野瀬へ送信した。
送られてきたメールを確認する野瀬の真剣な瞳は、アイドルを間近で見てきている太一ですらも釘付けにさせるほどかっこいい。注意して周りを気にすると、クラスの女子が野瀬をチラチラと見ているような気もする。
女子的に言わせれば学年一の美形男子野瀬とリアルアイドル太一のツーショットなんて、有難い神様のようなコンビだ。もちろん中原がいても全然いいのだが、この二人は滅多に二人きりにならないからこそ、そのレアさが更に女心を躍らせるのであった。
女子達から妙に注目されているなと思いながら、太一はじっと携帯を眺めたまま動かない野瀬を呼んだ。
「あのさ、野瀬」
「ん?」
パッとこちらに視線を戻す野瀬のナチュラルさに、またもドキっとさせられる。
まともに目も合わせてもらえず、喋っていても声が小さい上にしどろもどろで要領を得ていないことばかり言っている野瀬は、何故か目の前にいなかった。
誰だよ、お前!と叫びたいところを頑張って堪え、太一は呼吸をひとつしてから口を開いた。
「今日の会議、二十時からなんだよね。だからさ、それまで野瀬んちに……お邪魔させてもらってもいい?」
結局昨日は一ノ瀬と太一が話し合った内容を二人に伝えたあと、すぐに解散となった。雪村が他の仕事で抜けることになり、その一時間後には志藤も別の仕事を控えていたためだ。なんだかんだでやはり雪村と志藤は売れっ子アイドル。事務所のトップ3ともなると、エッグバトルにばかり時間を割けない。それは致しかたないことだった。
「ねぇ沖。この土日、会議あるって言ってたよね?」
昼休み、中原がトイレに立ったのを狙って、野瀬は太一にそう尋ねた。
「どうだった? なにか、方向性決まった?」
方向性が決まったかと問われたら、たぶんまったく決まっていない。太一は肩をすくめて首を振った。
「まだ、何も決まってない」
その返事に野瀬も眉を垂れる。
「そっか」
「野瀬は、何か分かった?」
問われて野瀬は首を振る。ごめんと謝らなければいけないことが情けなかった。
太一の隣の席に腰を下ろし、野瀬は携帯電話を取り出した。
「あのさ、沖。俺本気で沖の力になりたいと思ってる。だから他の曜日のグループメンバー、教えてくれないかな?」
「え?」
それは思ってもみない申し出だった。
「……なんで?」
「敵情視察ってやつ? それに申し訳ないけど他のグループの情報なしには、月曜日の特徴も分からないのが事実だよ。良かったら教えてほしい」
あの野瀬がここまでしっかりとした口調で言ってきたのだ。太一はびっくりしたが、そこまで真剣に考えてくれているなら教えないわけにいかない。巻き込んだのは自分なのだから。
ただ猛烈に言いたかった。「普通に喋れるんじゃん!」と。けどそんなツッコミをかませば、野瀬が金輪際話してくれないような気がして、太一はぐっとその言葉を飲み込んだ。
「分かった。今メール送るよ」
太一はグループ名とメンバーを打ち込み、すぐに野瀬へ送信した。
送られてきたメールを確認する野瀬の真剣な瞳は、アイドルを間近で見てきている太一ですらも釘付けにさせるほどかっこいい。注意して周りを気にすると、クラスの女子が野瀬をチラチラと見ているような気もする。
女子的に言わせれば学年一の美形男子野瀬とリアルアイドル太一のツーショットなんて、有難い神様のようなコンビだ。もちろん中原がいても全然いいのだが、この二人は滅多に二人きりにならないからこそ、そのレアさが更に女心を躍らせるのであった。
女子達から妙に注目されているなと思いながら、太一はじっと携帯を眺めたまま動かない野瀬を呼んだ。
「あのさ、野瀬」
「ん?」
パッとこちらに視線を戻す野瀬のナチュラルさに、またもドキっとさせられる。
まともに目も合わせてもらえず、喋っていても声が小さい上にしどろもどろで要領を得ていないことばかり言っている野瀬は、何故か目の前にいなかった。
誰だよ、お前!と叫びたいところを頑張って堪え、太一は呼吸をひとつしてから口を開いた。
「今日の会議、二十時からなんだよね。だからさ、それまで野瀬んちに……お邪魔させてもらってもいい?」
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