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泥沼作戦会議
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気付かない振りをして、明るく元気に、みんなに平等に接し続けてきた志藤だが、その箍はすでに外れている。
だがいい子でいることに慣れすぎていた志藤は、周りの顔色を伺ったり、進行のスムーズさを優先したりと自分を殺すことに長けていた。だがそれは雪村の言うところの楽な道と言うやつなのかもしれない。
だからといって、その道が楽だったとは到底思えない。たくさんの事を我慢して、犠牲にしてここまできたのだから。
顔で笑い、心で泣く。
それが志藤だ。どれだけ辛く淋しい毎日を送って来ただろうか。どれだけ仮面を被ってきただろうか。どんなに陰口を叩かれようと、どんなに嫌味を言われようと笑顔で受け流してきた。誰からも文句を言われないようにと、人一倍努力した。人一倍レッスンした。
けど何ひとつ報われないまま、僻み嫉みの対象となるトップナインで居続ける自分。それが嫌で嫌で仕方なくて、だからといってトップナインを退くなんてことも今更できない。第一、例え退却した所で現状が如何程も変わるとは、とても思えなかった。
つまりはもう、実力をつけるしかない。認めさせることしか志藤には残ってなかったのだ。けどそれさえも雪村にねじ伏せられる。
お前はまだまだ浅はかでお子様なのだと突きつけられる。
「社長に依怙贔屓されてる。みんな知っての通りだよ」
投げやり且つ力のない言葉。けどその言葉は今まで確信の持てなかった噂話をすべて肯定する内容だった。
「雪村さんの言う通りだよ。俺は小石ひとつ落ちてない舗装された綺麗な道を歩いてきた。それのどこがモンスターなの? 笑わせんなよ」
自嘲気味に笑い、志藤は一度太一を泣きそうな顔で見つめると、すぐにぐっと俯いた。
太一はヨイショなどしていない。志藤が頑張っていることも、その手が頼もしいことも、その背中がいつもしゃんと正されていることも、全部ちゃんと知っているから。
だからこそ、そんなことを言われたことがこの上なく悲しかった。
「このメンバーに選ばれたのだって、どこまでホントの実力だったのか自分でも分かってない。Monday Monsterなんて名前……俺には荷が重すぎるよ」
志藤は大きなため息を一つ吐き出すと、用意されていたペットボトルの水を持って席を立った。
「ごめん……。ちょっと、頭冷やしてくる」
背中を丸め、頼りなく歩き出す志藤。そしてそのまま、ひとり、部屋を出て行ってしまった。
沈黙の会議室。静まり返った空気の中、太一はたまらず席を立った。あんなに悲しそうな志藤をやはり一人にはしておけないと思ったからだ。いつだって前向きで明るい志藤が、背中を丸めて、太一にすらも冷たい態度を取ったのだ。きっと心はズタズタで酷く爛れているかもしれない。
そう思うと、ほっとけるわけもない。追いかけようと会議室のドアを目指したが、それはすぐに引き止められた。
「待て」
雪村だった。鋭い瞳で太一を見ている。だが太一も今回ばかりは怯まなかった。
「待たないよ! 待つわけないだろ!」
そう言って部屋を出て行こうと駆け出した太一に、慌てて席を立った雪村が会議室のドアノブを先に掴んだ。
「なんで止めるんだよ! なんで……っ! なんでユキあんなこと言ったんだよ! どうせ分かってて言ったんだろ!」
通せんぼするようにドアの前に立つ雪村の胸板に拳を叩きつける。
「やっぱりお前はモンスターだよ! 血も涙もないただのモンスターだ!」
言っちゃいけない一言だった。
叫んですぐ太一もそれに気付き、ハッとして雪村を見上げたが、彼は怒るでも悲しむでもない強い瞳で太一をただ見つめただけだった。
「……好きに言えよ。引き止めて悪かった。けど俺が行く。お前はここで待ってろ」
それだけ言うと、雪村は太一に背を向け、小走りで部屋を出て行ってしまった。
だがいい子でいることに慣れすぎていた志藤は、周りの顔色を伺ったり、進行のスムーズさを優先したりと自分を殺すことに長けていた。だがそれは雪村の言うところの楽な道と言うやつなのかもしれない。
だからといって、その道が楽だったとは到底思えない。たくさんの事を我慢して、犠牲にしてここまできたのだから。
顔で笑い、心で泣く。
それが志藤だ。どれだけ辛く淋しい毎日を送って来ただろうか。どれだけ仮面を被ってきただろうか。どんなに陰口を叩かれようと、どんなに嫌味を言われようと笑顔で受け流してきた。誰からも文句を言われないようにと、人一倍努力した。人一倍レッスンした。
けど何ひとつ報われないまま、僻み嫉みの対象となるトップナインで居続ける自分。それが嫌で嫌で仕方なくて、だからといってトップナインを退くなんてことも今更できない。第一、例え退却した所で現状が如何程も変わるとは、とても思えなかった。
つまりはもう、実力をつけるしかない。認めさせることしか志藤には残ってなかったのだ。けどそれさえも雪村にねじ伏せられる。
お前はまだまだ浅はかでお子様なのだと突きつけられる。
「社長に依怙贔屓されてる。みんな知っての通りだよ」
投げやり且つ力のない言葉。けどその言葉は今まで確信の持てなかった噂話をすべて肯定する内容だった。
「雪村さんの言う通りだよ。俺は小石ひとつ落ちてない舗装された綺麗な道を歩いてきた。それのどこがモンスターなの? 笑わせんなよ」
自嘲気味に笑い、志藤は一度太一を泣きそうな顔で見つめると、すぐにぐっと俯いた。
太一はヨイショなどしていない。志藤が頑張っていることも、その手が頼もしいことも、その背中がいつもしゃんと正されていることも、全部ちゃんと知っているから。
だからこそ、そんなことを言われたことがこの上なく悲しかった。
「このメンバーに選ばれたのだって、どこまでホントの実力だったのか自分でも分かってない。Monday Monsterなんて名前……俺には荷が重すぎるよ」
志藤は大きなため息を一つ吐き出すと、用意されていたペットボトルの水を持って席を立った。
「ごめん……。ちょっと、頭冷やしてくる」
背中を丸め、頼りなく歩き出す志藤。そしてそのまま、ひとり、部屋を出て行ってしまった。
沈黙の会議室。静まり返った空気の中、太一はたまらず席を立った。あんなに悲しそうな志藤をやはり一人にはしておけないと思ったからだ。いつだって前向きで明るい志藤が、背中を丸めて、太一にすらも冷たい態度を取ったのだ。きっと心はズタズタで酷く爛れているかもしれない。
そう思うと、ほっとけるわけもない。追いかけようと会議室のドアを目指したが、それはすぐに引き止められた。
「待て」
雪村だった。鋭い瞳で太一を見ている。だが太一も今回ばかりは怯まなかった。
「待たないよ! 待つわけないだろ!」
そう言って部屋を出て行こうと駆け出した太一に、慌てて席を立った雪村が会議室のドアノブを先に掴んだ。
「なんで止めるんだよ! なんで……っ! なんでユキあんなこと言ったんだよ! どうせ分かってて言ったんだろ!」
通せんぼするようにドアの前に立つ雪村の胸板に拳を叩きつける。
「やっぱりお前はモンスターだよ! 血も涙もないただのモンスターだ!」
言っちゃいけない一言だった。
叫んですぐ太一もそれに気付き、ハッとして雪村を見上げたが、彼は怒るでも悲しむでもない強い瞳で太一をただ見つめただけだった。
「……好きに言えよ。引き止めて悪かった。けど俺が行く。お前はここで待ってろ」
それだけ言うと、雪村は太一に背を向け、小走りで部屋を出て行ってしまった。
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