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泥沼作戦会議
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舗装されて小石ひとつ落ちていない道。
それは今まで志藤が歩いてきた道だ。名ばかりのトップナイン。依怙贔屓の末の月曜代表。
叩きつけられた資料の軽い痛みは、その何十倍も、いや……何百倍も痛かった。
名前に頼ろうとしていたわけじゃない。すぐに諦めたつもりもない。志藤は志藤なりに本気で考えて本気でそう提案した。そこに手を抜こうなんて気持ちは一切なかったし、楽な道に逃げようとしたわけでもない。けど雪村の言葉を聞くと、その通りだと思えた。
すべて認めざるを得ないくらい、雪村が正しかった。
悔しさと、情けなさと、惨めさと、そして……自分の未熟さ。じわりと涙が込み上がり、それを見ていた太一がそれこそ気休めでもいい!と震える声を上げた。
「ま、まぁ! ちょっと落ち着こう! もう一度冷静になって、しっかりと、もっと、ほら……じ、じっくり話し合おう」
だが、一度キレた雪村の牙は太一にも向けられた。
「話し合おうって、てめぇさっきからずっと傍観してたくせに、どの口が偉そうなこと言ってんだよ」
強烈な睨みとドスの効いた声に、太一は黙り込んだ。
「どうせお前のことだから、どっちつかずなんだろ?」
そんな風に言われ、さすがの太一もムッとした。どっちつかずなんて言い方をされる筋合いはない。太一は太一なりに二人の意見をちゃんと理解しているし、どちらの言い分も痛いほど分かっているつもり。だからこそお互いがきちんと納得できるような答えを見つけ出さなきゃならないのであって、それを賢明に探そうとしている自分の思いをそんな風して全否定されるなんて、あまりに心外だった。
「なんだよ……その言い方」
手に持っていた資料をぐしゃりと握り、隣で涙を堪えている志藤を一度横目で確認してから、太一は雪村へと鋭い瞳を向けた。
「どっちつかずの何が悪いんだよ。ユキの考えも、歩くんの考えも全部ちゃんと尊重したいだけじゃないか! 同じ人間じゃないんだから、考えが違うのは当たり前で、それでもみんなが納得できるような……最悪、納得せざるを得ない答えを見つけ出してかなきゃならないんだろ!?」
満場一致で納得のいく答えが手元にない今、出てきている案の中間を探す。今出来ることはそれしかない。そうしようと太一は太一なりに必死に考えていたのだ。
それを “どっちつかず” と言われるのは、あまりに蔑ろな言葉であった。
「妥協するにはまだ早いかもしれないけど、二人の……っ」
そこまで口にして、太一はハッとして口を噤んだ。
というのも、雪村が持っていたベットボトルの水を机に叩きつけたからだ。その音に驚き口を噤むと、雪村は鋭い瞳を容赦無く太一へと向けた。
「俺と志藤の意見なんかどうでもいいんだよ」
え?と全員が雪村を見る。
「お前はお前の意見を言えよ! 俺と志藤の意見を尊重する前にてめぇの意見準備しやがれ! そうだろっ!? 今は意見をまとめる時じゃなくて、意見を出し合う時なんだよ!」
太一に、返す言葉はなかった。
二人の意見をまとめようと努めることは決して悪くない。ただ今はその時ではない。全員の意見をちゃんと出し合おうとしている雪村の姿勢に、まさか太一が歯向かうことなんか出来るわけはなかった。
ごめん。
謝ったつもりだったけど、その声は少しも出ていなかった。
それは今まで志藤が歩いてきた道だ。名ばかりのトップナイン。依怙贔屓の末の月曜代表。
叩きつけられた資料の軽い痛みは、その何十倍も、いや……何百倍も痛かった。
名前に頼ろうとしていたわけじゃない。すぐに諦めたつもりもない。志藤は志藤なりに本気で考えて本気でそう提案した。そこに手を抜こうなんて気持ちは一切なかったし、楽な道に逃げようとしたわけでもない。けど雪村の言葉を聞くと、その通りだと思えた。
すべて認めざるを得ないくらい、雪村が正しかった。
悔しさと、情けなさと、惨めさと、そして……自分の未熟さ。じわりと涙が込み上がり、それを見ていた太一がそれこそ気休めでもいい!と震える声を上げた。
「ま、まぁ! ちょっと落ち着こう! もう一度冷静になって、しっかりと、もっと、ほら……じ、じっくり話し合おう」
だが、一度キレた雪村の牙は太一にも向けられた。
「話し合おうって、てめぇさっきからずっと傍観してたくせに、どの口が偉そうなこと言ってんだよ」
強烈な睨みとドスの効いた声に、太一は黙り込んだ。
「どうせお前のことだから、どっちつかずなんだろ?」
そんな風に言われ、さすがの太一もムッとした。どっちつかずなんて言い方をされる筋合いはない。太一は太一なりに二人の意見をちゃんと理解しているし、どちらの言い分も痛いほど分かっているつもり。だからこそお互いがきちんと納得できるような答えを見つけ出さなきゃならないのであって、それを賢明に探そうとしている自分の思いをそんな風して全否定されるなんて、あまりに心外だった。
「なんだよ……その言い方」
手に持っていた資料をぐしゃりと握り、隣で涙を堪えている志藤を一度横目で確認してから、太一は雪村へと鋭い瞳を向けた。
「どっちつかずの何が悪いんだよ。ユキの考えも、歩くんの考えも全部ちゃんと尊重したいだけじゃないか! 同じ人間じゃないんだから、考えが違うのは当たり前で、それでもみんなが納得できるような……最悪、納得せざるを得ない答えを見つけ出してかなきゃならないんだろ!?」
満場一致で納得のいく答えが手元にない今、出てきている案の中間を探す。今出来ることはそれしかない。そうしようと太一は太一なりに必死に考えていたのだ。
それを “どっちつかず” と言われるのは、あまりに蔑ろな言葉であった。
「妥協するにはまだ早いかもしれないけど、二人の……っ」
そこまで口にして、太一はハッとして口を噤んだ。
というのも、雪村が持っていたベットボトルの水を机に叩きつけたからだ。その音に驚き口を噤むと、雪村は鋭い瞳を容赦無く太一へと向けた。
「俺と志藤の意見なんかどうでもいいんだよ」
え?と全員が雪村を見る。
「お前はお前の意見を言えよ! 俺と志藤の意見を尊重する前にてめぇの意見準備しやがれ! そうだろっ!? 今は意見をまとめる時じゃなくて、意見を出し合う時なんだよ!」
太一に、返す言葉はなかった。
二人の意見をまとめようと努めることは決して悪くない。ただ今はその時ではない。全員の意見をちゃんと出し合おうとしている雪村の姿勢に、まさか太一が歯向かうことなんか出来るわけはなかった。
ごめん。
謝ったつもりだったけど、その声は少しも出ていなかった。
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