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優越の対象

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 翌日、いつも自転車置き場で出会う志藤に、今日は一緒に帰れないと断りを入れた。毎日教室に迎えに来てくれる志藤、そんなことを言ったのはたぶん初めてだ。志藤は少し驚いた顔をしていたが、聞き分け良く了承してくれた。
 何か予定があるのかと尋ねられたが、曖昧に返答する。まさか美月と一緒に帰るなんて口が裂けても言えない。もともと美月は志藤のファンだったのだから。

 フワフワと心浮かれたまま一日が過ぎて行く。

 だが、昼休み。
 野瀬がじっと見つめてくるから、太一はドキっとした。美月は野瀬の妹だ。今日、一緒に下校する約束を誰よりも知っている可能性がある。いや、むしろ知っているに違いない。太一は野瀬の眼差しにそれを確信し、気まずくて俯いた。

 中原がトイレに立つと、見計らったようにベランダへ呼び出され、何を言われるのだろうとドキマギしたが、ここは潔く妹さんと一緒に下校させてもらいます、と頭を下げるべきだろうか、なんてバカみたいなことを考えたりもした。

 だが、野瀬の方が太一より先に言葉を発する。

「みーはやめておいた方がいい」

 思ってもいない言葉だった。自分の妹を全否定するような言葉。一瞬理解できなくて眉を顰める太一に、野瀬は更に言葉を被せた。

「騙されちゃダメだよ、沖」

 物騒すぎる言葉。確かに野瀬家へ行った時、それほど仲が良いようには感じなかったが、まさかここまで妹を否定してくるとは思ってもいなかった。しかも。

「あいつはにしか興味ない」

 ショックを受けるに充分すぎる言葉だった。

 優越。

 太一の中に、その二文字が一気に広がっていく。
 自分が優越と呼んでもらえるまでになったことは素直に嬉しい。けど、同時にとんでもなく惨めだった。

 優越。つまり、高価なアクセサリーと同じということだ。

(まさか……、そんなこと……)

 そう思いたかった。
 だけど現に「教室まで迎えに来い」と言われている。それはクラスメイトに見せびらかす為ということか。

 妙に辻褄が合ってしまい、太一の中に悲しい靄が掛かる。そしてそれはぶつける場所を見失って、野瀬の腕にグーパンを食らわす形になった。もちろん本気じゃない。だけど野瀬はイテッと漏らすと、少し驚いたように太一を見下ろした。

「……ムカつくな、お前。そういうことわざわざ言うなよ」

 浮かれていたはずの気持ちが沈みそうになる。

「あっ、ごめん……でも」

 野瀬も一応取り繕おうとしたが、太一はもうそれ以上聞きたくなくてピラピラ手を振ると、ベランダから教室へと続くドアに手を掛けた。

「分かったよ。そのつもりで接する。ご警告どうも」
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