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優越の対象
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勉強机に向かい、太一はいつものように勉強していた。だがそこには、美月からもらったカップケーキがある。すでに一つ食べ切った。
カップケーキの隣に置かれている携帯電話からは、時折メールの受信音が鳴り、太一はその度飛びつくように内容を確認した。
もちろん、お相手は野瀬美月だ。
これほど心を踊らせて女の子とメールをするのは初めてだった。カップケーキのお礼と感想から始まったメールは、太一の予想よりずっと長続きして、今度一緒に出掛けないかというお誘いまで受けた。
世に言うデートというやつだ。太一はドキドキして、オレで良かったら、と返事しようとしたが、その本文はすぐに消された。土日のデートは絶対に無理だとすぐに気付いたからだ。
一気にテンションが下がる。折角女の子とお出掛け出来るかもしれないというのに、まさかの仕事が立て込むなんてあり得ない。だが本当にあり得ない事態は、自分が曜日代表に選ばれ、仕事三昧なこの日々の方であると、太一は堅実に思い直した。雪村が言うように、女にうつつを抜かしている場合でない。だがしかし。
『土日は仕事があるから、明日、良ければ一緒に下校しない?』
何度も何度も文章を打ち直し、でもこれ以上書き換えようがなくなって、太一は心臓を高鳴らせてメールを送信した。
返事は早かった。
『嬉しい! 迎えに来てくれますか? 2ー5です』
「む、迎え……っ !?」
思わぬ申し出に驚き、たまらず声が出てしまったが、女性を迎えに行くのは男としての嗜みだと、太一は持ち前のフェミニストぶりを大いに発揮した。
『分かった。迎えに行くよ』
そう返事をし、程なくメールは終わった。
太一はその後、勉強を放っぽりだしカップケーキを片手にベッドへダイブした。
「やばい……、こんなことしてる場合じゃないのに」
そう。こんなことをしている場合ではない。それは誰の目にも歴然だ。受験勉強はしないといけないし、グループの方向性だって決めないといけない。次の会議は土曜日。そのまま日曜日も月曜日もグループ活動が決まっている。この三日間の会議で方向性がきちんと決まればいいが、そのためには太一だってちゃんと考えておかなければならない。みんなの意見をただ聞いているだけでは駄目なのだ。
本当に女にうつつを抜かしている場合ではない。分かってはいるが、甘い匂いのするカップケーキが太一の正気を鈍らせてしまう。
「美月……ちゃん」
太一にとって彼女は絶世の美女だ。
グループの方向性を考えなければいけないのは百も承知だが、目の前の煩悩に目が眩んでしまう。
(ダメだ! 考えなきゃ、考えなきゃ……っ、グループのこと)
だがそんな簡単に見つかる答えではない。あれだけ皆と話し合ったのに答えは見つけ出せなかったのだ。煩悩に負けそうになっている頭じゃ、更にと役立たずだ。
「……お風呂入ろう」
太一はリセットするつもりでお風呂に入ったが、結局脳内はお花畑状態のまま、その日はもうさっさと寝てしまうことを選択するしかなかった。
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