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前途多難
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そう危惧する太一だったが、実際のところ会議の定義をしっかり理解しているのは一ノ瀬の方であった。志藤も特に一ノ瀬の発言に気分を害しているわけではない。
「爽やか路線か。俺はさ、決戦が冬だから少し大人な雰囲気でしっとり仕上げてもいいかなと、思ったんだよ」
雪村がそう提案し、更に続ける。
「けど別に冬の歌ってわけじゃない。最終決戦にもつれ込むことを想定すると、冬の歌じゃ季節外れだから」
最終決戦の日時は、資料にゴールデンウィーク予定と記載されている。そうなると確かに冬の歌では季節感がおかしくなってしまう。
だけど、まさか季節までをも考慮する雪村に、太一は言葉もなかった。自分の歌いたい曲を言い合う場所ではないのだと皆の言葉を聞きながら、太一は自分が情けなく感じた。だが、それと同時にとても新鮮で楽しくもあった。
「バラード系ってことですか?」
一ノ瀬が雪村に尋ねると、彼は曖昧に返答した。
「バラードまではいかなくてもいいだろうけど、そんな所だな」
「でも、そうなると水曜日が強そうじゃない?」
そう切り込んで来たのは志藤だった。そして全員が「確かに」と心の中で頷く。雪村は資料をめくって他曜日のグループメンバーが記載されている紙をテーブルの中央に置いた。
「ってことは、だ。まずは他のグループの特色を知ることが最優先かも知れないな」
志藤の言葉に雪村は火曜日の二人を指差した。
「まずは火曜。BLACK CAT。黒野くんと猫居くんのコンビ」
トップナインの内の二人。火曜日は激戦区だったのか、全てのグループで唯一トップナインしか選ばれていない曜日だ。
でも、なんとなくそれは分かる気がした。
「この二人はイメージがしっかりしてる。ワイルドセクシー、だね」
志藤が答える。この二人のイメージを壊すのは実に難しい上、壊すことすらもったいない。だからこそ他に誰も選ばれなかったのではないかと、太一だけでなくこの場にいる全員がそう思っていた。
「水曜日、Mellow。及川くんと菊池くんと水野の三人。これは志藤が言った通り、バラードが似合いそうな三人だ。透明感があるように思う」
そのグループ名のごとく、柔らかく優しいイメージだ。
「木曜日、SURF。佐久間と圭吾と阿部くんと、ウツミ……?」
「ウチウミだよ」
一ノ瀬が雪村の言葉を訂正する。
雪村は忘れないように丁寧にふりがなを打つと、名前の横に貼り付けられている写真をマジマジと見た。
「イマイチ覚えてねぇな、こいつ。どんな奴なんだ?」
雪村は一ノ瀬に目配せしたが、それらしい返事はなく、かくんと首を傾げられた。
「僕もあまり……。ちょっと大人しい感じだけど、なんというか雰囲気はあるかんじ? たいちゃんみたいな」
「オレ?」
突然名前を出され、太一の方が驚いた。
「爽やか路線か。俺はさ、決戦が冬だから少し大人な雰囲気でしっとり仕上げてもいいかなと、思ったんだよ」
雪村がそう提案し、更に続ける。
「けど別に冬の歌ってわけじゃない。最終決戦にもつれ込むことを想定すると、冬の歌じゃ季節外れだから」
最終決戦の日時は、資料にゴールデンウィーク予定と記載されている。そうなると確かに冬の歌では季節感がおかしくなってしまう。
だけど、まさか季節までをも考慮する雪村に、太一は言葉もなかった。自分の歌いたい曲を言い合う場所ではないのだと皆の言葉を聞きながら、太一は自分が情けなく感じた。だが、それと同時にとても新鮮で楽しくもあった。
「バラード系ってことですか?」
一ノ瀬が雪村に尋ねると、彼は曖昧に返答した。
「バラードまではいかなくてもいいだろうけど、そんな所だな」
「でも、そうなると水曜日が強そうじゃない?」
そう切り込んで来たのは志藤だった。そして全員が「確かに」と心の中で頷く。雪村は資料をめくって他曜日のグループメンバーが記載されている紙をテーブルの中央に置いた。
「ってことは、だ。まずは他のグループの特色を知ることが最優先かも知れないな」
志藤の言葉に雪村は火曜日の二人を指差した。
「まずは火曜。BLACK CAT。黒野くんと猫居くんのコンビ」
トップナインの内の二人。火曜日は激戦区だったのか、全てのグループで唯一トップナインしか選ばれていない曜日だ。
でも、なんとなくそれは分かる気がした。
「この二人はイメージがしっかりしてる。ワイルドセクシー、だね」
志藤が答える。この二人のイメージを壊すのは実に難しい上、壊すことすらもったいない。だからこそ他に誰も選ばれなかったのではないかと、太一だけでなくこの場にいる全員がそう思っていた。
「水曜日、Mellow。及川くんと菊池くんと水野の三人。これは志藤が言った通り、バラードが似合いそうな三人だ。透明感があるように思う」
そのグループ名のごとく、柔らかく優しいイメージだ。
「木曜日、SURF。佐久間と圭吾と阿部くんと、ウツミ……?」
「ウチウミだよ」
一ノ瀬が雪村の言葉を訂正する。
雪村は忘れないように丁寧にふりがなを打つと、名前の横に貼り付けられている写真をマジマジと見た。
「イマイチ覚えてねぇな、こいつ。どんな奴なんだ?」
雪村は一ノ瀬に目配せしたが、それらしい返事はなく、かくんと首を傾げられた。
「僕もあまり……。ちょっと大人しい感じだけど、なんというか雰囲気はあるかんじ? たいちゃんみたいな」
「オレ?」
突然名前を出され、太一の方が驚いた。
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