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前途多難
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「あのぉ、それで沖先輩。良かったら、連絡先教えてもらえませんか?」
「だ……ッ」ダメだよ!
そう叫びそうになった志藤だが、嬉しそうに笑った太一に思わず口を噤んだ。
「オレの?」
照れ笑いのような笑顔。
太一が幸せそうに笑っている。やっぱり太一は最初から美月を気に入っていたのだ。
それは志藤には強烈なダメージだった。
「もちろん、いいよ」
そしてすんなりと美月の申し出を受け入れる太一。喜びはしゃぐ美月。完全なる敗北、惨敗というやつである。
手際よく連絡先を交換し終えると、太一は美月へ柔らかく笑った。
「カップケーキの感想、今夜にでも送るよ」
そんな一言を添え、太一は美月に手を振った。
「じゃ、仕事あるから。またね」
カップケーキありがとう、と二つ入ったその袋を掲げ、太一は校門を抜けた。
「あ、俺も。ありがとう、美月ちゃん! またね!」
志藤もそう声をかけたけど、美月の視線は太一に釘付けだった。
これはとんでもないことになったぞ、と胸をざわつかせながら、志藤は事務所の会議室に腰を下ろした。
有り得ない。いきなりの強敵登場である。
雪村待ちの会議室。
太一は一ノ瀬と会話に花を咲かせ、志藤もそれに相槌を打ちながらも、脳内は美月のことでいっぱいだった。仕事に向かう電車の中で、志藤はいつ美月と仲良くなったのだと太一に確認した。そしたらなんと野瀬の妹だというじゃないか。
美月の名字すら知らなかった志藤は、なんて邪魔な兄妹なんだと心底野瀬家の人間に苛立ちを覚えた。
野瀬は太一と同じクラスという絶対的優位に立つ邪魔な存在だったが、美月は女という最強の装備を生まれながらに持ち合わせている。
この二人を排除しなければ……。
そんなことばかり、志藤は至って大真面目に考えていた。
どうすれば太一から遠ざけることができるのかを真剣に考える。
そして出てきた結論はこうだった。美月と自分が付き合ってしまえばいいのだと。そしたら少なくとも美月に太一は取られない。それがうまく行ったとして残るは野瀬。美月とうまく付き合えれば、野瀬家に上がり込み、直接プレッシャーをかけることができる。
これでどうだ!!と志藤は完璧なプランに自己満足したが、太一が自分の鞄に入っているカップケーキを時折嬉しそうに見ている姿が目にとまり、その計画はあっさりと崩れ去った。
(そっか……。たいちゃん、美月ちゃんのこと好きなんだ)
太一の幸せが一番。それが一番大事なのだ。
そんな当たり前のことに、志藤は気付いた。男は駆除しても、女まで排除する必要はない。彼に近づく者を誰彼構わず排除しようとしていたが、敵は男のみで女ではない。そういうスタンスで太一のボディガードを始めたはずが、いつの間にか太一に好意を寄せる者全てが邪魔者になってしまっていた。
それが意味するもの。それはたった一つしかない。
(……俺、もしかして……やっぱり……)
今まで志藤はその感情に蓋をして、知らないふりをし、気づかないふりをして目を背け続けてきたけど、女という強力なライバルの出現に、自分の気持ちを認めざるを得なくなってしまった。
(……そか。やっぱり俺……たいちゃんのこと好きなんだ)
泣きそうなくらい、自分が愚かだと志藤は思った。
太一を守るはずだったのに、結局自分が一番やましい存在に成り下がっている。しかも雪村よりも、野瀬よりも、ずっと太一と同じ時間を共有している。仕事場も……学校も。
それは正直なところ、かなりラッキーなはずなのだが、恋心に気付いてしまったばかりの志藤には少し辛かった。
「だ……ッ」ダメだよ!
そう叫びそうになった志藤だが、嬉しそうに笑った太一に思わず口を噤んだ。
「オレの?」
照れ笑いのような笑顔。
太一が幸せそうに笑っている。やっぱり太一は最初から美月を気に入っていたのだ。
それは志藤には強烈なダメージだった。
「もちろん、いいよ」
そしてすんなりと美月の申し出を受け入れる太一。喜びはしゃぐ美月。完全なる敗北、惨敗というやつである。
手際よく連絡先を交換し終えると、太一は美月へ柔らかく笑った。
「カップケーキの感想、今夜にでも送るよ」
そんな一言を添え、太一は美月に手を振った。
「じゃ、仕事あるから。またね」
カップケーキありがとう、と二つ入ったその袋を掲げ、太一は校門を抜けた。
「あ、俺も。ありがとう、美月ちゃん! またね!」
志藤もそう声をかけたけど、美月の視線は太一に釘付けだった。
これはとんでもないことになったぞ、と胸をざわつかせながら、志藤は事務所の会議室に腰を下ろした。
有り得ない。いきなりの強敵登場である。
雪村待ちの会議室。
太一は一ノ瀬と会話に花を咲かせ、志藤もそれに相槌を打ちながらも、脳内は美月のことでいっぱいだった。仕事に向かう電車の中で、志藤はいつ美月と仲良くなったのだと太一に確認した。そしたらなんと野瀬の妹だというじゃないか。
美月の名字すら知らなかった志藤は、なんて邪魔な兄妹なんだと心底野瀬家の人間に苛立ちを覚えた。
野瀬は太一と同じクラスという絶対的優位に立つ邪魔な存在だったが、美月は女という最強の装備を生まれながらに持ち合わせている。
この二人を排除しなければ……。
そんなことばかり、志藤は至って大真面目に考えていた。
どうすれば太一から遠ざけることができるのかを真剣に考える。
そして出てきた結論はこうだった。美月と自分が付き合ってしまえばいいのだと。そしたら少なくとも美月に太一は取られない。それがうまく行ったとして残るは野瀬。美月とうまく付き合えれば、野瀬家に上がり込み、直接プレッシャーをかけることができる。
これでどうだ!!と志藤は完璧なプランに自己満足したが、太一が自分の鞄に入っているカップケーキを時折嬉しそうに見ている姿が目にとまり、その計画はあっさりと崩れ去った。
(そっか……。たいちゃん、美月ちゃんのこと好きなんだ)
太一の幸せが一番。それが一番大事なのだ。
そんな当たり前のことに、志藤は気付いた。男は駆除しても、女まで排除する必要はない。彼に近づく者を誰彼構わず排除しようとしていたが、敵は男のみで女ではない。そういうスタンスで太一のボディガードを始めたはずが、いつの間にか太一に好意を寄せる者全てが邪魔者になってしまっていた。
それが意味するもの。それはたった一つしかない。
(……俺、もしかして……やっぱり……)
今まで志藤はその感情に蓋をして、知らないふりをし、気づかないふりをして目を背け続けてきたけど、女という強力なライバルの出現に、自分の気持ちを認めざるを得なくなってしまった。
(……そか。やっぱり俺……たいちゃんのこと好きなんだ)
泣きそうなくらい、自分が愚かだと志藤は思った。
太一を守るはずだったのに、結局自分が一番やましい存在に成り下がっている。しかも雪村よりも、野瀬よりも、ずっと太一と同じ時間を共有している。仕事場も……学校も。
それは正直なところ、かなりラッキーなはずなのだが、恋心に気付いてしまったばかりの志藤には少し辛かった。
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