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前途多難

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 気まずい空気が漂い、太一は残っているご飯を口の中にかき込むと、さっさと席を立った。バタバタと部屋に戻り携帯を取り出す。この状況に、太一は堪らず雪村へ電話していた。

 コール音は五回。

『おぅ、どうした』

 聞き慣れた親友の声。ほっと安心したのは、雪村がいつだって前向きで、いつだって太一の背中を支えてくれているからだ。

「ううん、ごめん。明日から Monday Monster としての活動が始まるなぁと思うと、ちょっと居ても立ってもいられなくて」

 それも事実。だけど元気を分けて欲しかったのが真実だ。携帯越しに雪村の笑い声が聞こえると、少しだけ元気が出た。

『はは。三ヶ月後、後悔しないようにキッチリ仕上げていこうな』
「うんっ」

 いつだって余裕の雪村。いつだって本当にカッコイイ。

『この背中に不安は背負わない』

 そう言った雪村だけど、彼とて太一と同じ中学三年生。高校受験をどうするのか、やはり気になるところだった。

「ねぇ、ユキ。決戦は二月だけど……高校さ、どこ受けるの?」

 おずおずと本題を切り出すと、雪村はあっさりと返答した。

『俺? 都立受けるけど』
「都立受けるの!?」

 公立高校に芸能科などという便利な科があるはずもなく、太一は雪村の返答に思わずベッドから立ち上がった。

『おぅ。推薦してもらうつもり。まぁ一応受験勉強もしつつ、でも推薦で落ちることもそうそうないだろ』

 へへっと笑う雪村に、太一はその手があったのか!と意表を突かれた。

『推薦入試だと一月に試験があるから、落ちない限り二月の追い込みには集中出来るかなぁと思ってるんだけど。太一はどうするんだ?』

 雪村に電話したのは、実に賢明であった。この時ばかりは雪村の頭の良さに感服した太一。というか、頭がいいくせにたまに太一は大ボケをかます。普通に考えれば方法はそれしかないのだ。

「お、オレも明日、先生に相談してみる!」
『おぅ、早くしろよ~。願書の期日もあるからさ』
「そうだね! ユキありがとう! なんか、一気に霧が晴れた感じだよ!」

 太一の内申ならば推薦を勝ち取るのは容易であろう。

『はは、なんだよ。悩んでたのか? 俺はもう去年からそのつもりで動いてたぞ』

 雪村の人生計画には寸分の狂いもないのか。そんな風に思ってしまう程、彼は先を見据えて歩いている。

(すごい、やっぱりユキってすごいや!)

 雪村さまさまである。
 電話を切ると、さっきのどんよりとした気分はどこへやら、太一は早く明日にならないかとさえ思った。早く明日になって、早く先生に相談したい。推薦を貰わなければと。
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