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前途多難
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夕食時、太一はいつ言うべきか散々迷って一週間も黙り通していた一大事をようやく家族に打ち明けることにした。
「あのオレ……、実はエッグバトルで、月曜代表に選ばれたんだ」
麻婆豆腐を口から吹き出して、陽一がむせ返った。両親もまた唖然と口を開け、嘘でしょ?と分かりやすく顔に書いている。
「た、太一!! マジかよ! おめでとう!」
吹き出した麻婆豆腐で汚れた口元を、陽一は手の甲で拭うと、太一の手を取りブンブンと振った。
「太一は選ばれると思ってたよ! すっげぇじゃん! もうっ、もうマジすげぇじゃん!」
揺さぶられるように握手され、太一は苦笑いで何とかその手を離してもらうと、ちらりと両親の顔色を伺った。もちろんの事だが、二人は喜ぶでもなく真面目な顔をして太一を見つめていた。
その目が、更に太一を怖気付かせてしまう。
両親は喜んでくれない。それが辛かった。だが分かっていたことだ。両親は強く反対しない代わりに特別応援もしてくれない。冷めているというわけじゃなく、すべて太一の将来を心配してのこと。
きっと、これが太一ではなく陽一だったならば、両親はある意味喜んだかもしれない。太一と違い、出来の悪い陽一に将来性が見えるのだから、もしかすると進んで応援していた可能性はある。しかし、太一はもとより頭が良く要領もいい。芸能界などという一か八かの世界に挑戦しなくとも、彼の将来性には引きて数多な未来があるわけだ。
だからアイドルなどという狭き門をくぐる必要はまるでなかった。少なくとも両親はそう思っている。
「そ、それで高校なんだけど……、やっぱり芸能科のある学校に……しちゃダメかな?」
一回目の決戦は二月。集中するためにも、受験勉強の負担を軽減したい。
しかし両親は眉を潜めた。
「あなたの本業は学生よ。アイドルのお仕事を辞めろとは言わないけど、勉強を疎かにするくらいならアイドルはお休みしなさい」
母親の厳しい言葉。
「どちらに転んでもいいように、ちゃんとした学校に通っておかなきゃ、のちのち困るのはあなた自身なのよ? 勢い任せに進路を決めるなんて、感心しないわ」
だが、どちらも器用にこなせる程、芸能界という世界は甘いわけではない。
なぜ今自分が受験生なのか、太一は本当に呪いそうになる。食べかけの夕飯を見つめ、もうそれ以上何も言えなかった。
「なんで? なんで応援してやらねぇんだよ!」
しかし、俯いて黙り込んでしまった太一に、陽一が箸を置いて大声を張り上げた。
「今、すげぇチャンスなんだぜ!? 太一がアイドルとして今一番頑張らなきゃなんねぇって時に、なんで親のあんたらが応援してやんねぇんだよ!」
「応援してないわけじゃない。勉強を疎かにするな、と言ってるだけだ」
父親がピシャリと言い放つ。
「太一の応援もいいが、陽一。お前も太一を見習ってもっと勉強したらどうだ。勉強が出来なければイルカの飼育員になどなれるわけもないだろう」
陽一の夢。それを逆手に取る様に言われ、陽一もまた黙り込んだ。
「あのオレ……、実はエッグバトルで、月曜代表に選ばれたんだ」
麻婆豆腐を口から吹き出して、陽一がむせ返った。両親もまた唖然と口を開け、嘘でしょ?と分かりやすく顔に書いている。
「た、太一!! マジかよ! おめでとう!」
吹き出した麻婆豆腐で汚れた口元を、陽一は手の甲で拭うと、太一の手を取りブンブンと振った。
「太一は選ばれると思ってたよ! すっげぇじゃん! もうっ、もうマジすげぇじゃん!」
揺さぶられるように握手され、太一は苦笑いで何とかその手を離してもらうと、ちらりと両親の顔色を伺った。もちろんの事だが、二人は喜ぶでもなく真面目な顔をして太一を見つめていた。
その目が、更に太一を怖気付かせてしまう。
両親は喜んでくれない。それが辛かった。だが分かっていたことだ。両親は強く反対しない代わりに特別応援もしてくれない。冷めているというわけじゃなく、すべて太一の将来を心配してのこと。
きっと、これが太一ではなく陽一だったならば、両親はある意味喜んだかもしれない。太一と違い、出来の悪い陽一に将来性が見えるのだから、もしかすると進んで応援していた可能性はある。しかし、太一はもとより頭が良く要領もいい。芸能界などという一か八かの世界に挑戦しなくとも、彼の将来性には引きて数多な未来があるわけだ。
だからアイドルなどという狭き門をくぐる必要はまるでなかった。少なくとも両親はそう思っている。
「そ、それで高校なんだけど……、やっぱり芸能科のある学校に……しちゃダメかな?」
一回目の決戦は二月。集中するためにも、受験勉強の負担を軽減したい。
しかし両親は眉を潜めた。
「あなたの本業は学生よ。アイドルのお仕事を辞めろとは言わないけど、勉強を疎かにするくらいならアイドルはお休みしなさい」
母親の厳しい言葉。
「どちらに転んでもいいように、ちゃんとした学校に通っておかなきゃ、のちのち困るのはあなた自身なのよ? 勢い任せに進路を決めるなんて、感心しないわ」
だが、どちらも器用にこなせる程、芸能界という世界は甘いわけではない。
なぜ今自分が受験生なのか、太一は本当に呪いそうになる。食べかけの夕飯を見つめ、もうそれ以上何も言えなかった。
「なんで? なんで応援してやらねぇんだよ!」
しかし、俯いて黙り込んでしまった太一に、陽一が箸を置いて大声を張り上げた。
「今、すげぇチャンスなんだぜ!? 太一がアイドルとして今一番頑張らなきゃなんねぇって時に、なんで親のあんたらが応援してやんねぇんだよ!」
「応援してないわけじゃない。勉強を疎かにするな、と言ってるだけだ」
父親がピシャリと言い放つ。
「太一の応援もいいが、陽一。お前も太一を見習ってもっと勉強したらどうだ。勉強が出来なければイルカの飼育員になどなれるわけもないだろう」
陽一の夢。それを逆手に取る様に言われ、陽一もまた黙り込んだ。
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