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一次審査! (後編)

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 帰り道。
 雪村と別れた太一と志藤は、無言で電車に揺られていた。ずっと黙ったままの志藤に太一もどうに声をかけていいのか分からなかった。ただ、この無言の時間に、雪村と恋人同士だと勘違いされていたことをぐるぐる考えて、時折恥ずかしくなったりもした。
 最寄り駅に降り立ち、自転車を押しながらゆっくりと帰る。そしてようやく志藤は口を開いた。

「雪村さんは勘違いじゃないかって言ったけど……、俺の見た人達はやっぱり勘違いじゃないと思うんだ」

 ぽつりと志藤が言葉を落とす。太一もまたそれに頷いた。
 やはり笑い飛ばした雪村は間違っていたのだ。志藤はこんなに真剣に悩んでいるではないか、と。電車に揺られながらずっと考えていた。自分は雪村と同じ態度を取ってはいけないと。

「そういう世界は確かにあると思うよ。別世界だと思ってたけど、案外近くにあるのかもね」

 笑い飛ばしてはいけない。そう誓う太一の態度に、志藤もどこかほっとした。だがその安堵も束の間。

「でも安心したよ。歩くんが男の人を好きなのかと思って、ちょっとビックリしちゃったから」

 苦笑いを浮かべた太一のその言葉は、志藤の心臓を深く抉った。
 虚勢を張って、「まさか」と返答したが、その声は頼りない。それでも太一はそんな志藤の様子に気付くことなく続けた。

「男が男を好きになる感覚ってどんな感じなんだろ。オレにはさっぱり分からないや。否定するつもりはないけど、ちょっと理解に苦しむなぁ。歩くんもでしょ?」

 だからそんなに悩んでるんでしょ?と、声にしない言葉が続いた気がして、志藤は冷や汗が滲みそうなほど動揺した。だって、たとえ男同士といえども、他人の自由な恋愛に自分が思い悩む必要など、本来まったくないのだから。

 うまく隠しきれていない動揺の中で志藤は、本当は自分も太一と同じ感性を持っていたはずなんだと強く思った。だが、佐久間と菊池の妙な会話がきっかけとなり、男を見る目が確実に変わってしまった
 特に……太一に対して。

 太一を守ろう守ろうとしたが故に、それはいつしか淡い恋へと姿を変え、志藤の心を強烈に揺さぶるものとなってしまった。
 それだというのに、太一の口から発せられたこの言葉は、もはや振られたも同然の内容。告白もしていないのに玉砕というやつだ。おまけに極めつけの一言まで浴びせられた。

「オレは絶対無理だ。歩くんの話を聞いて、女の子が好きなんだって改めて思わされちゃったな」

 優しく微笑む太一。そこには悪気なんて一切ない。これが太一の準備出来る優しさと誠実。それは玉砕してしまった志藤にだって、ちゃんと伝わっていた。

 だが、『絶対無理』の一言は、志藤の心臓を貫いたまま当分抜けそうになかった。

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