MOMO!! ~生き残れ、売れないアイドル!~

2wei

文字の大きさ
上 下
107 / 312
一次審査! (後編)

しおりを挟む
 そういえば皆ダンスを共に披露していたからだ。太一の選択曲はバラード中のバラード。 ダンスをしなくてもいいんじゃないか、という陽一のアドバイスを信じ、手振りひとつ考えずに歌のみを猛特訓したが、ここに来てそれがやはり不安要素へと姿を変えた。

 与えられた時間は皆同じ。その限られた時間の中で、それぞれしっかりと仕上げて来ている。それだというのに、太一はダンスを踊らないという選択をし、歌のみで勝負をかける。

 本当に一か八かの大勝負。
 そんなこと最初からわかっていたが、ここに来てそれはやはり足が竦むほどの不安になった。 

 それだというのに、太一はなかなか呼ばれない。早く終わらせたいのに。七番手が歌い終わり、八番手。次こそはと思うが、八番目は志藤だった。

 クール系で攻めると言っていた志藤は、確かに今までの印象からかけ離れたパフォーマンスを見せた。その表情もいつもの満点笑顔ではない。獲物を狩るような怪しげで強い瞳。夏のボイストレーニングも伊達ではなく、確実に伸びの良くなった歌声と声量。ドキっとするほどカッコ良かった。

 印象を覆すような攻めた演技はあっという間に終わり、残すところは太一ともう一人のみとなった。オオトリだけは嫌だと祈る。だが、くじが引かれるほんの一瞬の内に太一は色んなことを考えた。

 オオトリの方が審査員に印象付けられるからいいのではないか、でもダンスを踊らない自分がオオトリでは逆効果ではないか、アドリブでどうにか手振りくらい出来ないだろうか、と。

 だが結局、太一はオオトリを飾ることになった。

 準備されているマイクとスタンドを運び、フロアの中心にそれを置く。
 審査員だけじゃない。多くのスタッフやエッグ達からの注目を一身に受け止め、太一は深く深く深呼吸をした。

 マイクをスタンドに差し込み、雪村の赤いリストバンドを見つめる。こんなところで躓く訳にはいかない。リストバンドはまるでそう言っているようだった。この先の先。夢は果てしなく遠かったが、その舞台は目と鼻の先にある。手を伸ばせば届く場所にある。それなら精一杯手を伸ばすんだ。伸ばさないなんて、それじゃ男が廃るだろう。

 太一はぎゅっとリストバンドを握りしめ、最後の深呼吸で決心した。

「準備できました。お願いします」

 静かに流れ出すイントロ。誰もが息を飲んだ。
 パフォーマンスを終えている9名のエッグ達は、太一の透き通るような、蕩けるような甘い歌声に、時が過ぎるのも忘れる。若干15歳にして完成されたその歌声は、到底誰にも真似出来ず、アイドルとして勿体無いくらいの歌唱力を見せつけてきた。

 ダンスをしているわけじゃない。それなのに、誰もが彼から目を離せなかった。
 太一の武器。それは本人が思っているよりもずっとずっと強力である。その歌声も、目を見張るようなダンスも、誰がどう見たって緊張していないその堂々とした姿も。

 彼はそう、雪村や及川よりも、本当は実力が上なのかもしれない。

 しかし誰にも気付かれないところで、自分はどういうアイドルになりたいのだろうと太一は考えていた。結局その答えは見つからないまま、自由曲の発表は終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...