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一次審査! (前編)

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「それでは第1グループのエッグはこちらへ」 

 審査会場となるスタジオのドアが開かれ、スタッフの声が廊下に響いた。 

「行ってこい」 

 雪村の静かな声。 
 太一はリストバンドを見つめ、コクリと力強く頷いた。 

「いってきます」 

 突き出された拳に、太一もまた拳を突き当て、夢への一歩を踏み出した。


 審査会場となるスタジオには大勢のスタッフが立っていた。長机には社長や講師など、六名の審査員が前に座り、硬い表情でエッグ達を見つめている。

 太一を含む第一グループ。他の曜日のオーディションもこれから順に行われるため、本当に彼らが一番手のグループだった。並びは自由。太一は右から二番目の場所に立った。

「えー、皆さん。おはようございます」
「おはようございます」

 ダンス講師の挨拶に、エッグ達は一様に頭を下げる。

「それでは早速、一次審査の課題曲と参りましょう。悔いの残らないように、ベストを尽くしなさい」

 審査員の前にはエッグ五名分の資料がそれぞれ並べられている。もちろん、太一はかなりの注目株だ。

 太一の何がすごいのか。それはダンスが始まればすぐに分かる。
 エッグのスタンバイが確認されると、ついにスタジオに課題曲のイントロが流れ出した。 

 太一のダンスは周りとは比べものにならない。それは彼の体の柔らかさも影響しているが、如実に分かるのは抜群のセンスだ。素人目に見ても太一のダンスは誰よりも滑らかだ。まるで滑るような体の動きは、振りと振りを違和感なく繋ぎ合わせ、ステップはまるで宙にでも浮いてあるかのようで滞空時間が他より長く感じられる。決して派手に大きく動くことはないのに、その存在感は異様なほどに際立っていた。

 それは一見、他の四名と比べた時、振りのテンポが遅れている、と思う瞬間すらあるのだが、プロの目には太一のテンポが正確であることは一目瞭然であった。周りのテンポに流されず、自分のペースを守り切ること、駆け足の曲に流されずに一定のリズムを崩さないことはかなり難しい。それを平然とやってのける太一の姿は、講師の目にしっかりと焼き付いていた。

 やはり、逸材。 

 一人……二人、講師は太一の資料を早々と合格ボックスへと移した。 


 踊り終わった太一達第一グループは別室へと移動した。案内されたのは、レッスンスタジオだ。壁一面が鏡貼りになっているが、誰も自由曲の練習をしようとはしなかった。課題曲に合格していると自信を持てる者がいなかったからだ。太一とてそうだった。
 スタジオの隅に腰を下ろし、雪村から託されたリストバンドに手を添え、太一は体育座りで膝に顔をうずめた。

 全力を尽くした。
 踊り切った、やりきった。

 それだけは確かで、これで落ちていたらもうただの実力不足だ。きっぱり諦めるしかない。
 雪村が言うような、転がっているチャンスを見つける目が自分にあるとは思えないが、太一はそれでもこのチャンスを逃さないために、嫌というほど課題曲を練習した。それは自由曲を後回しにするほど。
 まずは課題曲の突破。その先にしか夢はない。

 志藤と約束した場所へ、陽一の夢見た場所へ、理想と憧れの場所へ──。
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