MOMO!! ~生き残れ、売れないアイドル!~

2wei

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熱帯夜

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「う……っわ!」

 本物の雪村に野瀬は抑えきれずに声を漏らした。しかしその声は中原の声に掻き消される。

「おわ! 本物っ!?」
「あ、太一じゃん。志藤も?」

 ニコニコとカッコいい笑みを浮かべ、雪村がタタッと四人に駆け寄ってくる。
 野瀬の声にならない叫び声。中原もまた目を輝かせた。雪村とハイタッチで挨拶を交わす太一は、親友のお出ましにその表情を緩ませた。

「来てたんだね、ユキ」
「おぅ。この夏、今日くらいしか花火見れそうになかったからさ」

 生で見る雪村の端麗さ、透るような声、圧倒的なオーラ。野瀬と中原は二人並んで、ただマジマジと雪村を見つめた。

「雪村さんもお友達とですか?」

 そこに志藤も混じり、エッグバトルではお馴染みの月曜組が揃った。

「いや、俺は親と来た」

 そう言って振り返ると、そこには優しそうな母親が一人立っていて、キョロキョロと息子を探している。

「母さん、こっち!」

 母親は雪村と一緒に太一と志藤の存在に気付くと、ぺこりと頭を下げゆっくりと歩み寄って来た。

「お母さんと来てるんですね。雪村さん優しいなぁ」

 志藤はにっこりと微笑む。太一もまた柔らかく笑った。

「ま、俺、母子家庭だし。たまにはな」

 細身の母親が、柔らかく微笑みながら雪村の隣に並ぶと再び頭を下げた。それに慌てて太一と志藤も頭を下げる。

「こんばんは!」
「初めまして、涼の母です。いつも息子がお世話になってます」
「いや! 世話になってるのはむしろ僕の方で……!」

 太一は慌てて手を振り、志藤も同じように首を振った。

「雪村さんにはいつも助けてもらいっぱなしです!」

 志藤もそう言葉を足すと、雪村だけがケタケタ笑った。そんな姿を野瀬と中原は間近で見つめる。雪村が母子家庭だということを初めて知ったが、そうだとしても思春期の多感な時期に母と二人で花火大会に出向くなど、普通の中学生ならあり得ない。なんて心優しい少年だと二人は感動に近い衝撃を受けた。

 そんな母親思いの優しい雪村に、野瀬は完全なる敗北感を覚えた。こんなに格好良くて、仕事も出来て、母親思いで優しい雪村。勝てるわけないと、改めてそう思ったのである。

 太一が雪村に惹かれる理由がそこには十分すぎるほどある。そう思ったら最後、野瀬の恋心はしゅるしゅると尻尾を巻いて逃げて行きそうになった。

(沖のこと好きだと思う。でも……やっぱり叶うわけない)

 母親が雪村にクレープを手渡し、それを見た太一がいいなぁ!と瞳を輝かせた。
 そんな光景をぼんやりと見つめながら、二人は付き合っているのかな、と不安に駆られたり、きっとそうなんだろうなとため息をついたり、でも本当にただの親友かもしれないし、と期待をしてみたり。でもやっぱり雪村はカッコいいな、とそう野瀬が思った時。

「ほら」

 そう言ってクレープを差し出した雪村に太一は嬉しそうに笑みをこぼすと、パクッとそれを口に含んだ。それとほぼ同時に、雪村も太一のりんご飴に噛み付く。その拍子に太一の顔はクレープに少し埋まり、鼻の上に生クリームをちょこんと載せる形になった。

「あっはっは! 悪りぃ悪りぃ!」

 その無様な姿に雪村と中原は声を出して笑ったが、志藤と野瀬はその神掛かった可愛さに息を飲んでいた。

「もう! 押し付けないでよ!」

 太一はぶぅっと膨れ、生クリームを取ろうとしたが、それよりも先に雪村が人差し指でそれを拭い取ると、それをそのまま自分の口に運んで舐めた。

「怒んなよ」

 その光景はいろんな意味で野瀬と志藤をノックアウトさせた。これは確実に、決定的な瞬間とも言える。

 もちろん、すべて勘違いなのだが。

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