76 / 312
アイドル御殿
2
しおりを挟む
「ねぇ、それより。俺、去年の浴衣……サイズ、大丈夫なのかな?」
「あぁ。ならもうお父さんのヤツにしましょ」
「えぇ~……地味じゃない?」
「これくらい渋いのを着こなせたら、男前が上がるわよ。むしろセクシーね」
グレーの布地に紺色の荒いストライプ。地味、といえばかなり地味である。しかし、誰が見てもカッコイイ野瀬が着れば、それは “着こなせている” のである。
「ケンちゃんも浴衣着るって?」
中原のことである。
「いや、あいつは着ないって言ってた」
もし着るとなると野瀬の母が着付けることになる。
「あらそうなの? あんた一人で浴衣?」
そう言われればそうだと思った。一人で浴衣を着て、歌いもしないカラオケに行き、屋台を巡って花火を見るなんて虚しすぎる。野瀬はしばらく考えて一大決心をする。
「お、きに聞いてみる」
沖の浴衣姿を想像して、是非着て来て欲しいと思ったからだ。パタパタとリビングに戻り、置きっぱなしだった携帯電話を持つと、またやいやい言い出す女共を振り払って二階へ駆け上がった。
自室に入り、ベッドに腰掛け、野瀬はメモリーの中から沖太一の文字を探した。
一度も使ったことのないこのアドレス。メールも電話もしたことはない。高級ワインのように温存しまくり、今後使わないんじゃないかというほど熟成される予定だったが、野瀬はそのコルクを開けることを決断した。
だって、勿体無い。今開けなければ、今後開けられることはないだろう。
― おはよう。今日の花火大会、浴衣着ていく? -
シンプルに打ち込んだメール内容。
だけど、“久しぶり、元気にしてる?”とか、“今日楽しみだね”とか、“たまご気分見たよ”などと打ち込むべきが散々迷った。女の子とメールする時は気を利かせ、そういったくだらない文面を挟みがちだが相手は男だ。中原とのメールじゃ絶対そんなことは打ち込まない。
ここはシンプルに本題だけを伝えた方がいいだろうと散々悩んだ末、十分後、ようやく思い切って送信した。
「ヤバイ……、送信しちゃった」
ドキドキしながら「送信しました」の画面を見つめ、ベッドに倒れこむ。返事は来るだろうかと、心臓が暴れまくる。絵文字やデコメを駆使するタイプだったら、野瀬のテンションは崩壊するほど上がりまくるだろう。
携帯電話を抱きしめ、ドキドキと恋する乙女のように返事を待つ。そんな自分が気持ち悪いと感じつつも、この高鳴る気持ちを抑える術などあるわけも無かった。
高鳴る心臓。それがまだ収まってもいない時分。返事は早々にやってきた。
鳴り響いた着信音に飛び起き、口から心臓が出て来るかと思うほどだった。
「は、早……っ!」
「あぁ。ならもうお父さんのヤツにしましょ」
「えぇ~……地味じゃない?」
「これくらい渋いのを着こなせたら、男前が上がるわよ。むしろセクシーね」
グレーの布地に紺色の荒いストライプ。地味、といえばかなり地味である。しかし、誰が見てもカッコイイ野瀬が着れば、それは “着こなせている” のである。
「ケンちゃんも浴衣着るって?」
中原のことである。
「いや、あいつは着ないって言ってた」
もし着るとなると野瀬の母が着付けることになる。
「あらそうなの? あんた一人で浴衣?」
そう言われればそうだと思った。一人で浴衣を着て、歌いもしないカラオケに行き、屋台を巡って花火を見るなんて虚しすぎる。野瀬はしばらく考えて一大決心をする。
「お、きに聞いてみる」
沖の浴衣姿を想像して、是非着て来て欲しいと思ったからだ。パタパタとリビングに戻り、置きっぱなしだった携帯電話を持つと、またやいやい言い出す女共を振り払って二階へ駆け上がった。
自室に入り、ベッドに腰掛け、野瀬はメモリーの中から沖太一の文字を探した。
一度も使ったことのないこのアドレス。メールも電話もしたことはない。高級ワインのように温存しまくり、今後使わないんじゃないかというほど熟成される予定だったが、野瀬はそのコルクを開けることを決断した。
だって、勿体無い。今開けなければ、今後開けられることはないだろう。
― おはよう。今日の花火大会、浴衣着ていく? -
シンプルに打ち込んだメール内容。
だけど、“久しぶり、元気にしてる?”とか、“今日楽しみだね”とか、“たまご気分見たよ”などと打ち込むべきが散々迷った。女の子とメールする時は気を利かせ、そういったくだらない文面を挟みがちだが相手は男だ。中原とのメールじゃ絶対そんなことは打ち込まない。
ここはシンプルに本題だけを伝えた方がいいだろうと散々悩んだ末、十分後、ようやく思い切って送信した。
「ヤバイ……、送信しちゃった」
ドキドキしながら「送信しました」の画面を見つめ、ベッドに倒れこむ。返事は来るだろうかと、心臓が暴れまくる。絵文字やデコメを駆使するタイプだったら、野瀬のテンションは崩壊するほど上がりまくるだろう。
携帯電話を抱きしめ、ドキドキと恋する乙女のように返事を待つ。そんな自分が気持ち悪いと感じつつも、この高鳴る気持ちを抑える術などあるわけも無かった。
高鳴る心臓。それがまだ収まってもいない時分。返事は早々にやってきた。
鳴り響いた着信音に飛び起き、口から心臓が出て来るかと思うほどだった。
「は、早……っ!」
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
ニケの宿
水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。
しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。
異なる種族同士の、共同生活。
※本作はちいさい子と青年のほんのりストーリが軸なので、過激な描写は控えています。バトルシーンが多めなので(矛盾)怪我をしている描写もあります。苦手な方はご注意ください。
『BL短編』の方に、この作品のキャラクターの挿絵を投稿してあります。自作です。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
【完結】元ヤクザの俺が推しの家政夫になってしまった件
深淵歩く猫
BL
元ヤクザの黛 慎矢(まゆずみ しんや)はハウスキーパーとして働く36歳。
ある日黛が務める家政婦事務所に、とある芸能事務所から依頼が来たのだが――
その内容がとても信じられないもので…
bloveさんにも投稿しております。
完結しました。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる