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初めてのテレビ収録!

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 テレビというのはリハでまでアイドルスマイルのサービスをしなきゃいけないのかと、太一は誤った知識を植え付けられた。もちろん、必ずしも笑わなきゃいけないわけではない。ただ、テレビのスタジオ収録に初参戦するのであれば、本番さながらにきっちりやり抜くのが今までの新米のスタイルだった。しかしこの男というのは、無駄に肝が座っているので、リハはリハ、本番は本番と割り切って仕事をしている。その割り切りの良さがまた彼の足枷だったりもするのだ。

 本番でしか本領を発揮しない。では常に本番の場にいない太一はどうなんだと言うと、言わずもがな手を抜いているようにしか見えない、ということだ。
 つまり太一には常に本番のプレッシャーを与え続ける必要があった。だが、その事実に事務所の人間は誰一人気づいていない。知っているのは、そう、雪村だけだ。

「いいですか?」

 話が終わったかなと思うタイミングを見計らい、雪村は控えめに木嶋へ声をかけた。

「あぁ、お先に。悪かったね」

 にっこり微笑み、木嶋は二人の前から去って行く。それを最後まで見送ってから、雪村は太一に一度目配せしてから歩き出した。何を言われるのかなと太一は雪村の背中を見つめ、気乗りしないがその後をついて行く。途中、志藤と目が合った。しかし、雪村に呼ばれているのに、志藤に寄り道するなど出来るはずもない。スタジオの隅まで来ると、雪村は壁にとんっと凭れかかった。その隣に同じように立ち、太一も壁に背をつけると、頼りなく俯いた。

「なに?」
「なに……って」

 雪村はまるで言わなくても分かるだろうと言いたげに太一を見たが、俯いている彼の横顔に、小さく息を吐き出した。

「途中まではいい感じだったと思うんだけど。何あれ。途中、歌詞までぶっ飛んだ?」

 ドキっと心臓が跳ね上がる。まさかバレているなんて思ってもいなかったからだ。
 雪村はバカに耳がいい。太一はしばらく息をすることすら忘れていたが、地獄耳過ぎる雪村に、苦笑いにも似た笑みを零した。

「はは……、気付かれたか。緊張するよね、やっぱりさ。初めてのことばっかりだから」

 そう言ってはみたが、頭の中は黒野のことしかなかった。
 オレには力不足。その言葉だけがぐるぐると脳内を駆け巡る。黒野の代役として自分がテレビに出て良いわけがない。黒野だって良い迷惑だろう。そんなことしか脳裏をよぎらない。

「緊張? お前が? バカ言えよ」

 雪村は鼻で笑った。その言葉にさすがの太一もムッとして雪村を睨んだ。

「なんだよ、緊張くらいするよ。人をサイボーグ扱いすんなよ」
「いや、だってお前の場合緊張した方が実力発揮すんじゃん。歌詞ぶっ飛ぶような緊張なら、それはたぶん緊張なんかじゃない」

 雪村の目がじっと太一を見つめる。

「自信ないんだろ」

 自信がない。
 図星だった。

 解けないかと思うほど絡み合う視線。あまりに鋭い眼光の雪村に、太一はゆっくりゆっくり顔を背かせた。

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