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少年達の夏

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 チラッと野瀬の顔色を伺った太一だったが、野瀬が酷く困惑していることに気付き、白を切るのはあまりに申し訳ないと思ってしまった。

「ごめん。口止めされてたの忘れてた。中原から聞いたんだ。野瀬がアイドル好きだって」

 先を歩く二人の背中。
 野瀬は顔から火を吹き出し、その歩みを止めた。太一も慌てて立ち止まり、二人の背中を一度確認してから野瀬へと向き直った。

 野瀬は口元を隠すように顔の半分を手で覆い、羞恥で太一を見られなかった。いや、そもそも目を合わせるなんて恥ずかしくて出来るはずもないのだが。それでも、いちクラスメイトとして普通に接していたかった。
 だがこれでは “ファンです、大好きなんです” と言っているようなものだ。あまつさえ野瀬は太一に別の感情も抱いている。ただのアイドル好きで片付けられたくないし、かと言って告白なんて出来るわけもないので、結果アイドル好きと思わせておいた方がいいかもしれないなんて思ったりもして。

 どちらにしたって、アイドル好きと知られたくなかったのだけは事実だった。

「あ、でも! 中原を責めないで。オレが悪いんだ」

 太一は太一で焦った。口止めされていたのをすっかり忘れていた。バレたら半殺しにされると言われていた中原から、更に半殺しにされるという半殺しの連鎖に巻き込まれてしまうことになる。

「オレが野瀬に嫌われてるなんて思ってたから」

 太一の言葉に、野瀬は眉を寄せた。
 羞恥の中で思わず太一に目をやり、困った顔をしている彼と目が合うと、いつもの癖でまたあからさまな態度の元、顔を背向けてしまう。しかし、これがいけなかったのだともすぐに気付いた。
 自分の軽率な行動が太一を傷つけていたのかもしれないと思い、野瀬は恐る恐る太一に視線を戻す。

 地味。といえば地味。だけど、太一とて陽一の兄。よくよく見ると整った顔をしている。一応アイドルなわけだから。いつか色々と頭角を現しそうな、そんな男。アイドル図鑑の太一も可愛いが、実物の方が断然可愛いしカッコイイと、こんな状況下に置いて冷静に思っている自分に、野瀬は自己嫌悪した。

 まさかこのトップシークレットを暴露するとは思ってもいなかった中原の背中を見つめ、野瀬は深呼吸で気持ちを整える。中原は口の軽い男ではない。良かれと思って太一にすべてを話したに違いない。三年に進級した時だって、太一と同じクラスと分かったその瞬間に、「よし、任せろ」と言って笑ってくれたのは誰でもない中原だ。こうやって一緒に居られるのはすべて中原のおかげ。責めるなんて、到底出来ない。
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