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少年達の夏

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 職員室を後にし、二人は並んで下駄箱を目指した。

「まさかこんなに早く仕事が舞い込んでくるなんて、事務所はたいちゃんをプッシュするつもりだよ、絶対!」

 何故か志藤の方が自慢気な表情を浮かべ、興奮気味に言った。太一の方がよほど落ち着いている様に見て取れる。

「みんな買い被りすぎだって」

 妙に落ち着き冷静な太一は、自惚れる、ということがそもそもない。少しは調子に乗ることも覚えた方がいいだろう。そう思えるほどに、この男はマイナス思考者である。それすべて、育ってきた環境のせい。陽一の存在は本当に大きい。

「たいちゃん……、頼むからもう少し自信持ってよ。というか、たいちゃんテレビ初めてなんだよね?」
「うん、初めてだよ」
「なんか余裕に見えるのは、俺だけ?」
「うん、たぶんね」

 そんなわけはない。誰がどう見ても余裕綽々に見える。当の本人は、先日藤本に聞いた話を思い出しながら、きっとオープニングのダンス要員として呼び出されたのだろうと思っている。まさかその後、ひな壇に座れるなんて考えてもいないし、コンサート会場がスタジオに変わるだけで、 “踊ればいい” と無心にそれだけしか考えていなかった。

 だからといってプレッシャーがないわけではないし、緊張だって明日になれば今以上に膨れ上がるだろう。

「さすがだなぁ、たいちゃん」
「何が?」

 何も分かっていないのは、当人だけだ。

 下駄箱に到着し、上履きを入れる袋がないことに気付いた太一は、仕方が無いからスクールバッグに無理やりそれを押し込んだ。履き慣れたスニーカーに履き替え、昇降口を出たところで、のっぽの男が太一の目に飛び込んできた。聞き慣れた明るい中原の声。それに笑うのっぽの野瀬。

「中原せんぱ~い!」

 先に下靴に履き替えていた志藤が無邪気に中原へと駆け出して行く。中原と野瀬は桜並み木の木陰に立ち、まるで誰かを待っているようだった。
 志藤の声に二人はぱっとこちらを見る。

「よぅ、待ってたんだよ!」

 一緒に帰ろうぜ、と誘う中原に四人は揃って自転車置き場へと向かった。

「お前ら、もう今日で学校終わりなんだろ?」

 中原の言葉に志藤が返事し、二人が並んで歩き出す。その一歩後ろに太一と野瀬が並んだ。以前なら絶対にあり得なかったことだ。太一も野瀬でさえもそう思った。

 今、太一が隣にいる、というこのチャンスをみすみす逃すことを出来るのが野瀬であるが、この機会を有効に使えないかと考えるのが太一だ。ドキドキしてまともに考えが纏まらない野瀬に、太一は構わず口を開いた。

「野瀬。この夏、誰かのコンサート行くの?」
「え、コンサート? なんで……どういう……こと?」

 どういうことかと聞かれ、太一はしまったと気付いた。そういえば中原から、野瀬がアイドルオタクであることは内密にしろと言われていたのだ。

「あ~…、いや何でもない。聞かなかったことにして」
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