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少年達の夏
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帰宅準備を整えていると、志藤からメールが入った。
『荷物は今日中に持って帰った方がいいよ! 帰りに職員室に行こう』
やはり明日、学校を休んだ方がいいのだと教えてもらった太一は、持ち帰れと指定されている荷物を全て肩に引っ提げた。今日と明日に分けて持って帰ろうと思っていた、絵の具セットと裁縫セットは、かなり邪魔なお荷物だ。
いつもは志藤が太一を迎えに三年のフロアにやって来るが、今日ばかりは志藤も荷物の多さに手間取っているのか、なかなかその姿を見せない。志藤が降りて来るだろう階段の前で、太一は壁に凭れて彼の到着を待つ。続々と後輩たちや同級生たちが階段を下っていく。
「あ、沖くんだ」
「沖先輩いるじゃん」
「昨日の、見た?」
太一の姿を目撃すると、生徒達がひそひそと話しながらその前を通り過ぎて行く。妙に気恥ずかしかったが、これがドリームキャッチの影響力なのだ。その凄さにもはや感心すら覚える。あの日、藤本が言ったように社長は腕が立つ。この企画で、きっとアンプロの名前は間違いなく世間に浸透するだろう。太一でさえこれだけの注目を集めるのだから。
志藤の到着を待ちながら、太一は木嶋マネージャーからのメールを再度確認した。
黒野が欠席と記されている。黒野、としか記されていないが、間違いなく黒野影虎のことだろう。トップナインのひとりだ。
その代役は如何せん太一には重荷過ぎる。代役なんて言わず、人数合わせだと言われた方が随分それらしい。きっとそっちだ、と太一は解釈した。あながち間違ってはいないが、これを代役と思って頑張るか、人数合わせと思って参加するかでは、今後に大きく響くだろう。
だがこの時点で、太一はその重要性をまったく理解していなかった。
「太一!」
不意に名前を呼ばれ、太一は階段を見上げた。そこには待ちわびている志藤ではなく、見飽きるくらい毎日顔を合わせている弟の陽一がいた。
「大荷物だな」
ケラケラと笑いながら、のんびりと階段を降りて来る。太一とは似ても似つかぬその風貌。短い髪はツンと立てられ、茶色く染められている。制服もだらしなく着こなされ、上履きの踵は踏み潰されてスリッポン化されている。優等生と不良の兄弟。見た目も違うが生き方まで違う。ただ、仲だけは良かった。
「明日、学校休むことになったからさ」
目の前までやって来た陽一にそう言って、ずいっと絵の具箱を突きつけた。
「持って帰ってよ」
冗談半分で言ったつもりだった。しかし、陽一はそれを素直に受け取って小首を傾げた。
「なんで休むんだよ」
「うん、テレビ収録の仕事が舞い込んだんだ」
陽一は目を見開き、直ぐに歯を見せて顔一面の笑みをこぼした。
「まじかよ! すげぇ、太一! やったじゃん!」
がばっと無邪気に抱きつく。
「絵の具くらい持って帰ってやるよ! 筋トレだ、筋トレ! 全部寄越せよ。持って帰ってやるから!」
「え、いいよ。冗談だってば」
「いいっていいって!」
どうせ陽一のことだ、自分の荷物は何一つ纏めていないに違いない。明日泣きを見るのはこいつだ。むしろ太一は「自分の荷物を纏めて出直してこい」と言いたいところであった。
『荷物は今日中に持って帰った方がいいよ! 帰りに職員室に行こう』
やはり明日、学校を休んだ方がいいのだと教えてもらった太一は、持ち帰れと指定されている荷物を全て肩に引っ提げた。今日と明日に分けて持って帰ろうと思っていた、絵の具セットと裁縫セットは、かなり邪魔なお荷物だ。
いつもは志藤が太一を迎えに三年のフロアにやって来るが、今日ばかりは志藤も荷物の多さに手間取っているのか、なかなかその姿を見せない。志藤が降りて来るだろう階段の前で、太一は壁に凭れて彼の到着を待つ。続々と後輩たちや同級生たちが階段を下っていく。
「あ、沖くんだ」
「沖先輩いるじゃん」
「昨日の、見た?」
太一の姿を目撃すると、生徒達がひそひそと話しながらその前を通り過ぎて行く。妙に気恥ずかしかったが、これがドリームキャッチの影響力なのだ。その凄さにもはや感心すら覚える。あの日、藤本が言ったように社長は腕が立つ。この企画で、きっとアンプロの名前は間違いなく世間に浸透するだろう。太一でさえこれだけの注目を集めるのだから。
志藤の到着を待ちながら、太一は木嶋マネージャーからのメールを再度確認した。
黒野が欠席と記されている。黒野、としか記されていないが、間違いなく黒野影虎のことだろう。トップナインのひとりだ。
その代役は如何せん太一には重荷過ぎる。代役なんて言わず、人数合わせだと言われた方が随分それらしい。きっとそっちだ、と太一は解釈した。あながち間違ってはいないが、これを代役と思って頑張るか、人数合わせと思って参加するかでは、今後に大きく響くだろう。
だがこの時点で、太一はその重要性をまったく理解していなかった。
「太一!」
不意に名前を呼ばれ、太一は階段を見上げた。そこには待ちわびている志藤ではなく、見飽きるくらい毎日顔を合わせている弟の陽一がいた。
「大荷物だな」
ケラケラと笑いながら、のんびりと階段を降りて来る。太一とは似ても似つかぬその風貌。短い髪はツンと立てられ、茶色く染められている。制服もだらしなく着こなされ、上履きの踵は踏み潰されてスリッポン化されている。優等生と不良の兄弟。見た目も違うが生き方まで違う。ただ、仲だけは良かった。
「明日、学校休むことになったからさ」
目の前までやって来た陽一にそう言って、ずいっと絵の具箱を突きつけた。
「持って帰ってよ」
冗談半分で言ったつもりだった。しかし、陽一はそれを素直に受け取って小首を傾げた。
「なんで休むんだよ」
「うん、テレビ収録の仕事が舞い込んだんだ」
陽一は目を見開き、直ぐに歯を見せて顔一面の笑みをこぼした。
「まじかよ! すげぇ、太一! やったじゃん!」
がばっと無邪気に抱きつく。
「絵の具くらい持って帰ってやるよ! 筋トレだ、筋トレ! 全部寄越せよ。持って帰ってやるから!」
「え、いいよ。冗談だってば」
「いいっていいって!」
どうせ陽一のことだ、自分の荷物は何一つ纏めていないに違いない。明日泣きを見るのはこいつだ。むしろ太一は「自分の荷物を纏めて出直してこい」と言いたいところであった。
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