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少年達の夏

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「たまご気分だよ」

 来週の火曜深夜から始まるエッグの新番組。
 草野が嬉しそうに拍手する。もちろん音はなっていない。中原がなんだそれと聞いてくるから、草野が間髪入れずに返答した。

「エッグの新番組よ! この前言ってたでしょ?」
「あぁ、そういう名前なの? ダッセェな」

 ほっとけよ、と太一も草野でさえも思った。

「とにかく明日、学校休まなきゃ」

 終業式は午前中で終わるが、無理に学校へ登校し、収録の入り時間に間に合わなかったらシャレにならない。どの道、志藤も収録に参加するはずだ。一度志藤に聞いてみようと太一は思い立った。

「おぉ、遂に仕事で学校を休む時が来たか! 出世したな、沖!」

 バシっと後ろから肩を叩かれて、太一はその重みに顔を歪ませる。

「痛いなぁ、手加減しろよ」
「手加減出来ねぇくらい喜んでやってんだろうが」

 無邪気な笑顔。やけに上から目線だが、嫌な気はしなかった。

「中原、沖。うるさいぞ」

 突然野太い声が教室に響き、国語教師の鋭い睨みに二人は黙り込んだ。

 太一は正面を向き直し、携帯を鞄にしまい込む。そしてふと視線を感じる。こちらを見ていたのは野瀬だった。目が合った途端、いつもの調子で視線を外される。

(……変わらないな)

 あの日繋いだ野瀬の手の温もりを、太一はぼんやりと思い出した。

(野瀬は……いい奴)

 いい奴の中原と親友なわけだから、嫌な奴でないことはもちろん分かっていた。だけどついこの前まではやっぱりどう考えたって大嫌いだった。それがあの日以来、本当に180度見え方が変わった。

(世の中にはいろんな人間がいるよな)

 男性アイドルが好きな男。コンサートに男性客がいることくらい、確かにある。見たこともある。しかし、まさかこんな近くにそういう男がいるなんて、太一は思ってもいなかった。

(コンサートとか行くのかな?)

 そんなことを考え、はっと中原の言葉を思い出した。

 ─ 賑やかな場所が好きなだけだ ―

 それってそういうことかと、太一は今ようやく納得するに至った。
 そして思うのだ。いつか自分がデビュー出来たら、野瀬にも見に来て欲しいと。
 そんな夢のような話、この前までは思いつきもしなかったが、夢で終わらせるにはもったいないエッグバトルが始まった。もちろん、自分がフィーチャリングされたから逆上せあがっているわけではない。単に指切りを交わした志藤との約束が太一を本気にさせているだけだ。

(ちょっと野瀬に興味出て来たかも)

 中原の言葉を思い出す。野瀬家に行ったら人生で一番チヤホヤされるというその言葉を。一体どんな家なんだろうかと期待を寄せてしまう。

(夏休み、遊びに行かせて貰おうかな)

 そんなことを考えながら、太一は今学期最後の授業を終えた。
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