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本当の気持ち
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自分の言った何気無い一言で、太一がこんなにも傷付いていたなんて思ってもいなかったのだ。軽はずみすぎる発言だったと思いはしたが、志藤の無神経さに勘付いていたのも事実。太一の純真さがいつかこうやって志藤に踏みにじられるのではないかと、正直な所、気を揉んでいた。そしてそれは見事に的中した。
自分に何が出来るか野瀬は考え、太一の気持ちを解きほどいてやらねばと思った。
「なんで、好きになれなかったの?」
このまま「なんとなく嫌い」のままではきっと何も解決しない。野瀬の言葉に太一は黙り込み、本当の理由を探す。この答えを見つけなければいけないことを太一も分かっていた。そうしないと志藤との距離は開く一方で、醜い思いに心を占領されてしまう。けどこの黒く渦巻く醜い思いの中に、きっと答えはあるはずなのだ。
そしてひとつ、 白く浮き立つ思いを見つけた。
「歩くんが入学してきて……自分の存在が在ってないような毎日で、かっこ悪いくらい歩くんに嫉妬して、それなのに、歩くんは無邪気にオレへ懐いてきて……、それがどうしても嫌だった」
だがそれが表向きの気持ちだ。もちろん本当の気持ちでもあるのだが、きっとそれは本当の理由ではない。
そこに隠されていた本当の気持ち。
「オレは、歩くんに凄い凄いって褒めて欲しい訳じゃなくて、オレは……オレは歩くんに、手を引いて欲しかったんだ……!」
そうだ。これこそが本当の理由だ。
「肩を並べて歩きたいわけじゃなくて、 “こっちだよ” って手を引いて……欲しかった」
堂々としていろよと思ったのは、きっとこれが原因。カメラが恥ずかしいねなんて太一のレベルに合わせるんじゃなくて、そんなのすぐ慣れるから大丈夫だよと、そう言って欲しかったのだ。
「……志藤くんのこと、尊敬してるんだね」
野瀬の低く優しい声が、太一の涙を一層誘った。
「……してるよ……、初めて出来た事務所の友達だから、ずっと大切で、ずっと好きで、ずっと……尊敬してる。その筈……だったのに」
学校の中で一緒に居ることが億劫になったのは、仲良くされればされるほど、惨めだったからだ。それならばいっそ同じ場所を歩くのではなく、手を引き、導き、先を歩いて欲しかった。そうしてくれた方が幾分も楽だった。そしたら「歩くんはカッコイイでしょ」と、そう皆に自慢したくなるくらい一緒に居たかったかもしれないのに。
「 “趣味” だって……、そんな風にしか見てないなら、最初からオレと肩並べようなんて、しなくて良かったのに。 オレの事なんて……構う必要なかったのに!」
「違う!」
太一の言葉を大声で否定したのは、太一に負けないくらい泣いている志藤だった。
「違うよ、たいちゃん……っ!」
自分に何が出来るか野瀬は考え、太一の気持ちを解きほどいてやらねばと思った。
「なんで、好きになれなかったの?」
このまま「なんとなく嫌い」のままではきっと何も解決しない。野瀬の言葉に太一は黙り込み、本当の理由を探す。この答えを見つけなければいけないことを太一も分かっていた。そうしないと志藤との距離は開く一方で、醜い思いに心を占領されてしまう。けどこの黒く渦巻く醜い思いの中に、きっと答えはあるはずなのだ。
そしてひとつ、 白く浮き立つ思いを見つけた。
「歩くんが入学してきて……自分の存在が在ってないような毎日で、かっこ悪いくらい歩くんに嫉妬して、それなのに、歩くんは無邪気にオレへ懐いてきて……、それがどうしても嫌だった」
だがそれが表向きの気持ちだ。もちろん本当の気持ちでもあるのだが、きっとそれは本当の理由ではない。
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そうだ。これこそが本当の理由だ。
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