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本当の気持ち
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やってしまったと苦虫を噛んだように顔を顰め、何とか深呼吸で気持ちも顔も整えると、ぱっと頭を上げた。
「すみませんでした」
「いいよ。俺もごめん。この前振った女子が心配そうにこっち見てたから、つい……」
志藤と太一はその言葉に “なるほど” と猛烈に納得し、同時に野瀬の優しさを、身をもって思い知った。
「で、結局未来ちゃんとどうなったか教えてやれよ」
中原がニヤニヤ笑いながら野瀬の腕を肘でつつく。
「……振った」
「振ったんかぁぁぁい!」
中原はバシッと野瀬の胸を叩いてツッコむと、気まずかった空気が一気に明るくなった。
「ま、振るとは思ってたけど」
そう言って中原はにっこり笑う。
「モテるくせに彼女作らないよね」
太一がそう言うと、野瀬は恥ずかしそうに眉を垂れて顔を背かせた。
「男友達とつるんでる方が楽しいですもんね」
志藤がフォローするようにそう言うと、野瀬は更に困ったように唇を噛み締め、しぶしぶ頷いた。
「ところで、今日こそハーゲンダッツ食いに行こうぜ」
「いや、さっきアイス食ったんだろ?」
中原の言葉に太一がすかさずツッコミを入れると、「一日一個ってお前は俺の母ちゃんか」と逆にツッコミを返されてしまった。
「でも今日はレッスン日だから、オレ達はちょっと……」
そう断りを入れる。
だがその時、ふと太一の目に可愛らしい女の子が双眸に飛び込んできた。
(あ……美月ちゃん)
先週末、志藤に挨拶をしてきた女の子だ。二年のアイドルと言われている鈴木未来がいかほど可愛いのかは知らないが、少なくとも太一にはこの女子生徒ほど可愛いと思う子はいなかった。
また志藤に挨拶してくるだろうかと、少しだけ期待したけど、 ちらりとこちらを見ただけで、彼女はさっさと通り過ぎてしまった。ほんの少しだけガッカリして視線を戻すと、野瀬の視線がじっと美月の背中を見つめていることに気付いた。それは言い換えるならば “熱視線” と表現してもいいかもしれない。
(……え? 嘘だろ?)
別に美月とどうにかなりたいと思ってるわけではないが、 野瀬が彼女を作らないワケは、美月を想っているからだろうか、とそう思ってしまった。早くも野瀬が女を振り続ける理由を知り、志藤に激怒したのも美月が絡んでいるのかもしれないと、太一は妙に納得した。複雑な事情だなと、まるで他人事のように思ったのだが、先に言っておこう。
これすべて、勘違いである。太一の鈍感ぶりは人並み外れ、立てる予想も物の見事に外れまくる。それはもう滑稽なほどに。
「あ、そか。月曜だもんな」
中原が残念そうな声を出し、小さく口を尖らせたがすぐにまた口を開いた。
「その曜日レッスンって違う日にずらせないの?」
思ってもいない言葉に太一と志藤は顔を見合わせた。太一がそんなことが出来るのか分からないとばかりに小さく首を傾げるから、志藤が代わりに答えた。
「たぶん、出来ます。ただ今週からは過去形になりそう。 “出来ました” が、正しいですね」
「すみませんでした」
「いいよ。俺もごめん。この前振った女子が心配そうにこっち見てたから、つい……」
志藤と太一はその言葉に “なるほど” と猛烈に納得し、同時に野瀬の優しさを、身をもって思い知った。
「で、結局未来ちゃんとどうなったか教えてやれよ」
中原がニヤニヤ笑いながら野瀬の腕を肘でつつく。
「……振った」
「振ったんかぁぁぁい!」
中原はバシッと野瀬の胸を叩いてツッコむと、気まずかった空気が一気に明るくなった。
「ま、振るとは思ってたけど」
そう言って中原はにっこり笑う。
「モテるくせに彼女作らないよね」
太一がそう言うと、野瀬は恥ずかしそうに眉を垂れて顔を背かせた。
「男友達とつるんでる方が楽しいですもんね」
志藤がフォローするようにそう言うと、野瀬は更に困ったように唇を噛み締め、しぶしぶ頷いた。
「ところで、今日こそハーゲンダッツ食いに行こうぜ」
「いや、さっきアイス食ったんだろ?」
中原の言葉に太一がすかさずツッコミを入れると、「一日一個ってお前は俺の母ちゃんか」と逆にツッコミを返されてしまった。
「でも今日はレッスン日だから、オレ達はちょっと……」
そう断りを入れる。
だがその時、ふと太一の目に可愛らしい女の子が双眸に飛び込んできた。
(あ……美月ちゃん)
先週末、志藤に挨拶をしてきた女の子だ。二年のアイドルと言われている鈴木未来がいかほど可愛いのかは知らないが、少なくとも太一にはこの女子生徒ほど可愛いと思う子はいなかった。
また志藤に挨拶してくるだろうかと、少しだけ期待したけど、 ちらりとこちらを見ただけで、彼女はさっさと通り過ぎてしまった。ほんの少しだけガッカリして視線を戻すと、野瀬の視線がじっと美月の背中を見つめていることに気付いた。それは言い換えるならば “熱視線” と表現してもいいかもしれない。
(……え? 嘘だろ?)
別に美月とどうにかなりたいと思ってるわけではないが、 野瀬が彼女を作らないワケは、美月を想っているからだろうか、とそう思ってしまった。早くも野瀬が女を振り続ける理由を知り、志藤に激怒したのも美月が絡んでいるのかもしれないと、太一は妙に納得した。複雑な事情だなと、まるで他人事のように思ったのだが、先に言っておこう。
これすべて、勘違いである。太一の鈍感ぶりは人並み外れ、立てる予想も物の見事に外れまくる。それはもう滑稽なほどに。
「あ、そか。月曜だもんな」
中原が残念そうな声を出し、小さく口を尖らせたがすぐにまた口を開いた。
「その曜日レッスンって違う日にずらせないの?」
思ってもいない言葉に太一と志藤は顔を見合わせた。太一がそんなことが出来るのか分からないとばかりに小さく首を傾げるから、志藤が代わりに答えた。
「たぶん、出来ます。ただ今週からは過去形になりそう。 “出来ました” が、正しいですね」
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