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エッグバトル始動!

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 太一が荷物をまとめ、鞄を肩に引っ提げた時、背の高い野瀬が中原の隣に立った。

「みんなで帰ろうぜ」

 中原が太一の後ろ姿に提案する。もちろんみんなの中には志藤も含まれている。

「じゃあハーゲンダッツ食べに行きませんか?」

 志藤がそう提案すると、いいねぇ、と中原は笑った。だが珍しく野瀬がそれに断りを入れた。

「ごめん。悪いけど俺ちょっと呼び出し食らってるから、先行ってて。急いで追いかけるから」

 太一の前でこれだけの長文を口にしたのはきっと初めてだろう。太一がそれに驚いた。

「しゃ、喋った!」
「え? そりゃ……、喋るよ。な、なに……? そんなにおかしい?」
「うわ、喋りかけて来た」

 野瀬は顔を真っ赤に染めると、ぷいっとそっぽ向いて膨れた。そんな野瀬を中原が肘でつついて揶揄い、この場で志藤ただ一人だけが意味を理解できなかった。今年度に入ってから四人で帰ることが度々あったが、まさか野瀬の無口に理由があったなんて志藤が知るわけもない。寡黙なイケメンとしか思っていなかった。

「呼び出しって、担任か?」

 中原の素朴な疑問に野瀬は首を振る。

「いや、二年の女の子」
「告白?」
「さぁ」

 慣れたやりとり。だが太一には夢のような話だ。太一以外の三人は女子からの告白なんて慣れたもので、それがさも日常茶飯事だとする雰囲気がぷんぷんと漂っている。妬ましい限りである。

「どうせ断るんだろ?」
「さぁ」
「お、脈あり?」

 中原が覗くように見上げると、野瀬は不敵に笑った。太一は野瀬のこんな表情ですら、これだけ近くで見たことはない。

(やっぱり笑うともっとカッコイイな)

 太一の熱視線に野瀬は我に返ると、かりかりと頭を掻いて、またいつもの無表情へと戻った。だがその時、志藤がぽんっと手を叩いた。

「鈴木未来ちゃんじゃないですか?」

 よく通る志藤の声が、思いのほか教室に響き渡る。野瀬の目が見開かれ、太一も中原もビンゴかと確信した。

「昼休みに鈴木さんのグループが騒いでたんですよ! 遂に告白するぞーって。断るなんて勿体無いですよ! 鈴木さん学年のアイドルですから!」

 そうなのかと驚き、太一と中原はぱっと野瀬へ視線を向けた。しかし、二人は野瀬の表情が不機嫌であることに気付き、ぎょっとした。しかし、それに気付いていない志藤だけが楽しそうに言葉を続ける。

「むちゃくちゃ可愛いですよ! 性格もいいし! 先週はファッション誌のインタビューにつかまって写真撮られたみたいですしね! 先輩カッコイイし、絶対お似合いですよ!」

 志藤に悪気があるわけではない。素直に彼女をお勧めしたいだけだった。だけど太一と中原の制止が一足遅く、志藤は野瀬にぐっと詰め寄られた。

「おい」

 物静かで大人しい野瀬のどすの利いた声に、志藤ははっとして姿勢を正した。
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