17 / 312
沖太一は劣等感で出来ている
16
しおりを挟む
だが、残念なことに太一はどこまでも鈍い。そのダンスセンスも圧巻の歌唱力も、目を見張るほどの存在感だって、逸材と言っていいだろう。
つまり、本来ならもっと売れていてもおかしくない、というわけだ。彼の持つ軸が醸し出す絶対的な存在感は、アイドルばかりの事務所内でも異色を放っているから。
雪村はそれさえも最初から見抜いていた。彼の直感と観察力は並大抵のものではない。そんな彼のお眼鏡に叶ったというのに、太一は何故かいつまで経ってもくすぶり続けている。
理由は簡単だ。やる気が見受けられないから。
彼は事務所内でこう呼ばれている。
『片手間アイドル、沖太一』
もちろん当人は知りもしない。いつだって全力で頑張っているつもりだ。しかし、何故か手を抜いているように見える。それは自分自身に自信がないからだ。実力はある、肝も座っている。しかし自信がない。イケナイのは無駄に肝が座っているからだろう。周りから見ると、手を抜いているようにしか見えないのだ。
おかげで実力は事務所でもトップクラスだというのに、コンサートではいつも後方にポジショニングされ、ボイストレーニングまでしているのになかなかマイクを持たせてはもらえなかった。
彼に必要なものはただ一つ。
自分を信じること。
それが出来ない限り、彼はいつまでたっても “片手間アイドル” の場所から抜け出せない。何度も言うが、当人はそんなこと知りもしない。そもそも自覚していないし、片手間アイドルなどと呼ばれていることすら、知りもしない。平和なやつ、というより完全に鈍感バカの域に達している。それがまたエッグ達にはたまらなかった。
エッグ達は口を揃えて言う。
沖太一は、エッグのアイドルなのだ、と。
世間一般に太一の名前は知られていないが、アイドル達のアイドルこそが太一だった。誰しもが太一にお近づきになりたがる。しかしその隣には雪村涼という鉄壁が立ちはだかり、どうしたって打ち破れそうにない。
志藤はその鉄壁を破りたくて仕方ないエッグの一人だった。
同じ中学と知った時、志藤は歓喜に舞った。もともと仲は良かったが、このチャンスを逃す訳にはいかないと思った。太一の親友の座が雪村から自分に打って変わるのならそれを実現させたくて仕方がない。実際はそのやる気が完全に裏目に出ているが、沖太一という人間はそれだけ人を惹きつける魅力を持ち合わせているのだ。
(ユキって静止画だと確かに性格わかんないよな)
事務所のバラエティ班は及川と志藤の二人がメインだ。雪村は本当に役者の顔しか世間に認識されていない。だから、太一は少し不安に思う。もしも草野のようなファンが雪村の本性を知ってしまったら……と。
根はいいやつだ。それは親友である太一が一番よく分かっている。上手に顔を使い分ける器用さは、もはや気味が悪い域に達しているが、オフ時に見せる更にオフの状態は、例えるなら甘えた猫。親友である太一ですら数回しか見たことがない。
(ずっとああだと可愛いんだけど)
つまり、本来ならもっと売れていてもおかしくない、というわけだ。彼の持つ軸が醸し出す絶対的な存在感は、アイドルばかりの事務所内でも異色を放っているから。
雪村はそれさえも最初から見抜いていた。彼の直感と観察力は並大抵のものではない。そんな彼のお眼鏡に叶ったというのに、太一は何故かいつまで経ってもくすぶり続けている。
理由は簡単だ。やる気が見受けられないから。
彼は事務所内でこう呼ばれている。
『片手間アイドル、沖太一』
もちろん当人は知りもしない。いつだって全力で頑張っているつもりだ。しかし、何故か手を抜いているように見える。それは自分自身に自信がないからだ。実力はある、肝も座っている。しかし自信がない。イケナイのは無駄に肝が座っているからだろう。周りから見ると、手を抜いているようにしか見えないのだ。
おかげで実力は事務所でもトップクラスだというのに、コンサートではいつも後方にポジショニングされ、ボイストレーニングまでしているのになかなかマイクを持たせてはもらえなかった。
彼に必要なものはただ一つ。
自分を信じること。
それが出来ない限り、彼はいつまでたっても “片手間アイドル” の場所から抜け出せない。何度も言うが、当人はそんなこと知りもしない。そもそも自覚していないし、片手間アイドルなどと呼ばれていることすら、知りもしない。平和なやつ、というより完全に鈍感バカの域に達している。それがまたエッグ達にはたまらなかった。
エッグ達は口を揃えて言う。
沖太一は、エッグのアイドルなのだ、と。
世間一般に太一の名前は知られていないが、アイドル達のアイドルこそが太一だった。誰しもが太一にお近づきになりたがる。しかしその隣には雪村涼という鉄壁が立ちはだかり、どうしたって打ち破れそうにない。
志藤はその鉄壁を破りたくて仕方ないエッグの一人だった。
同じ中学と知った時、志藤は歓喜に舞った。もともと仲は良かったが、このチャンスを逃す訳にはいかないと思った。太一の親友の座が雪村から自分に打って変わるのならそれを実現させたくて仕方がない。実際はそのやる気が完全に裏目に出ているが、沖太一という人間はそれだけ人を惹きつける魅力を持ち合わせているのだ。
(ユキって静止画だと確かに性格わかんないよな)
事務所のバラエティ班は及川と志藤の二人がメインだ。雪村は本当に役者の顔しか世間に認識されていない。だから、太一は少し不安に思う。もしも草野のようなファンが雪村の本性を知ってしまったら……と。
根はいいやつだ。それは親友である太一が一番よく分かっている。上手に顔を使い分ける器用さは、もはや気味が悪い域に達しているが、オフ時に見せる更にオフの状態は、例えるなら甘えた猫。親友である太一ですら数回しか見たことがない。
(ずっとああだと可愛いんだけど)
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる