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沖太一は劣等感で出来ている
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男から見てもかっこいいと思うほどの容姿。半袖シャツから覗く腕。その手に握られている携帯電話。メールでもしているのか、その親指がのんびりと動いている。小さく欠伸をするその仕草ですら、女子にはたまらなくときめく瞬間だろう。
(あの学年一のモテ男が……アイドルオタク?)
やはりどうしてもそれを鵜呑みに出来ず、気付けば突き刺さるような眼差しを野瀬へ向けてしまっていた。さすがの野瀬もその熱視線に気付き、ふと太一の方を振り向く。
バチっと電気が走ったように視線の絡んだ二人だったが、面白いほど同時に顔を背け、中原だけがそれを見て爆笑した。
「笑うな、バカ……っ」
今まで目が合っただけで顔を背けていた野瀬の失礼な態度の真相を知った太一は、もう絶対にヤツと普通に話すことは出来ないと確信した。つい数分前までは別の意味で絶対に仲良くなれないと思っていたが、もはやそれどころではない。妙な心拍数の上昇に、太一は戸惑い、赤面し、「ほんとやめて」と呟いて自分の机に再び突っ伏し直した。中原だけが一人、この状況を楽しんでいる。
「おはよ」
聞き慣れた女生徒の声が二人に向けられた。チラリと視線を上げると、隣の席の草野が長いポニーテールを揺らして不思議そうに小首をかしげている。
「なに? いじめられてるの?」
楽しそうに笑っている中原と、机に突っ伏している太一を交互に見ながら問いかけた彼女に、太一は二つ返事で頷いた。
「あぁ、そうだよ」
「人聞きわりぃな、おい」
後ろからツッコミが入ったが、太一は訂正しなかった。
「ねぇ、それより!」
草野も草野でそれ以上言及することはなく、早々に話題を変えようとする。昨日からこの話をしたくて仕方なかったのだと言わんばかりの勢いだ。机に顔を埋めている太一の隣にしゃがみ込み、瞳を煌めかせた。
「深夜にアンプロアイドルの新番組始まるんでしょ!?」
興奮気味にそう問いかけて来た草野も、例に漏れずアイドル好きの女子である。
太一は草野の言葉に記憶の引き出しを一斉に引っ張り出し、三ヶ月ほど前にそんな話を聞いたようなおぼろげな記憶にたどり着いた。
「……あぁ、たぶん」
「沖くんも出るの?」
んなワケないだろという目で草野を見ると、彼女は苦笑いを返し、ごめんと小さく謝った。謝られる方が傷つくんだけどという言葉を飲み込み、太一はようやく姿勢を正した。
「歩くんならもっと詳しく知ってるんじゃないかな。いつから始まるんだろ、その番組」
「それすら知らねぇのかよ」
中原が可笑しそうに笑い、太一は黙れと一喝した。
「エッグの……つまり研修生だけの番組だったはずだよ。ユキがそういえば最近ロケに行ってたかも?」
太一はぼんやりとした記憶を辿って草野へ報告すると、彼女はさらに瞳を輝かせた。
「え、ユキってあの雪村涼?」
なぜそんなに瞳を輝かせるのか。もちろん事務所内でトップの人気を保持しているからなのだが、理由はそれだけではない。雪村は基本的にバラエティーには出ないのだ。彼の芸能活動はドラマやCMが主となっており、本業のアイドル業は研修生のため、滅多にテレビでお披露目することがない。ナチュラルな雪村をテレビ拝めるチャンスは番宣の時くらいで、それだって滅多と出てくることはなかった。なので、基本的に雑誌という媒体でしかその素顔が晒されないのだ。それでも雪村は事務所きっての人気アイドルだった。
「そうだよ。あの雪村涼だよ」
(あの学年一のモテ男が……アイドルオタク?)
やはりどうしてもそれを鵜呑みに出来ず、気付けば突き刺さるような眼差しを野瀬へ向けてしまっていた。さすがの野瀬もその熱視線に気付き、ふと太一の方を振り向く。
バチっと電気が走ったように視線の絡んだ二人だったが、面白いほど同時に顔を背け、中原だけがそれを見て爆笑した。
「笑うな、バカ……っ」
今まで目が合っただけで顔を背けていた野瀬の失礼な態度の真相を知った太一は、もう絶対にヤツと普通に話すことは出来ないと確信した。つい数分前までは別の意味で絶対に仲良くなれないと思っていたが、もはやそれどころではない。妙な心拍数の上昇に、太一は戸惑い、赤面し、「ほんとやめて」と呟いて自分の机に再び突っ伏し直した。中原だけが一人、この状況を楽しんでいる。
「おはよ」
聞き慣れた女生徒の声が二人に向けられた。チラリと視線を上げると、隣の席の草野が長いポニーテールを揺らして不思議そうに小首をかしげている。
「なに? いじめられてるの?」
楽しそうに笑っている中原と、机に突っ伏している太一を交互に見ながら問いかけた彼女に、太一は二つ返事で頷いた。
「あぁ、そうだよ」
「人聞きわりぃな、おい」
後ろからツッコミが入ったが、太一は訂正しなかった。
「ねぇ、それより!」
草野も草野でそれ以上言及することはなく、早々に話題を変えようとする。昨日からこの話をしたくて仕方なかったのだと言わんばかりの勢いだ。机に顔を埋めている太一の隣にしゃがみ込み、瞳を煌めかせた。
「深夜にアンプロアイドルの新番組始まるんでしょ!?」
興奮気味にそう問いかけて来た草野も、例に漏れずアイドル好きの女子である。
太一は草野の言葉に記憶の引き出しを一斉に引っ張り出し、三ヶ月ほど前にそんな話を聞いたようなおぼろげな記憶にたどり着いた。
「……あぁ、たぶん」
「沖くんも出るの?」
んなワケないだろという目で草野を見ると、彼女は苦笑いを返し、ごめんと小さく謝った。謝られる方が傷つくんだけどという言葉を飲み込み、太一はようやく姿勢を正した。
「歩くんならもっと詳しく知ってるんじゃないかな。いつから始まるんだろ、その番組」
「それすら知らねぇのかよ」
中原が可笑しそうに笑い、太一は黙れと一喝した。
「エッグの……つまり研修生だけの番組だったはずだよ。ユキがそういえば最近ロケに行ってたかも?」
太一はぼんやりとした記憶を辿って草野へ報告すると、彼女はさらに瞳を輝かせた。
「え、ユキってあの雪村涼?」
なぜそんなに瞳を輝かせるのか。もちろん事務所内でトップの人気を保持しているからなのだが、理由はそれだけではない。雪村は基本的にバラエティーには出ないのだ。彼の芸能活動はドラマやCMが主となっており、本業のアイドル業は研修生のため、滅多にテレビでお披露目することがない。ナチュラルな雪村をテレビ拝めるチャンスは番宣の時くらいで、それだって滅多と出てくることはなかった。なので、基本的に雑誌という媒体でしかその素顔が晒されないのだ。それでも雪村は事務所きっての人気アイドルだった。
「そうだよ。あの雪村涼だよ」
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